第五夜...「みんなはひとりのために」
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その時だった。

「?!っ」

暗い水路。
水流にあわせて流れていた空気が、突然調律を乱して細かく振動するような違和感。
ざわざわと鳴動し、それでいて耳鳴りがしそうなほど張り詰めた大気。
思わず彼女は耳を抑えようとして手元の長銃を取り落としそうになった。

「大丈夫、ケイ先生?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。…シスカは、聞こえないのか?」

眼鏡を掛けた理知的な瞳の、艶やかな黒髪に黒い軍服に身を包んだ女性。
年の頃は20代後半といったところか。その彼女が傍らのもう一人の人影に問い掛けた。

「ん…さっきから耳鳴りがしてる。気圧の変化かな…?」

そう言って進み出てきたシスカと呼ばれた女性も、淡い紫色の髪をポニーテールに纏め紫を基調にした軍服に身を包んでいる。こちらは14〜5歳の少女。
いや、この二人は正式には軍人ではないようだ。
よく見れば左胸には暗闇でも発光しているID表示機が煌々とした明かりを灯している。
彼女達もまた、ハンターズギルドより依頼を受けた女性レンジャーなのだ。
ライデン達に協力を依頼され、この施設に潜り込んだのが手元の時計で1日前。
予定通りに合流ポイントに到着したもののライデン達の姿はなく、やむなく第二の目的である二人の少女の救助を優先させたのだが…。
いつの間にか、水路のようなところへと迷い出てしまったらしい。

「いや、これは耳鳴りじゃない。なにか、非常に高い周波数の音……」
「……もしかして、ライデンが言ってたあの事?」

言った言葉にはっとなり、シスカは慌てて手元の端末を見た。
確かにケイの言ったとおり、人の耳には聞こえないほどの高い周波数帯でセンサは激しく反応している。それはただのノイズではなく、何かの信号のように強弱を繰り返していた。
そして、それの示す意味は――?

「急いだほうがいいな。オプト博士って男、あんまり気が長い方じゃないみたいだねっ…!!」
「まさか!"トリガー"が引かれたとでも?!」
「そのまさかの可能性が高い!行くぞ、シスカッ!!」
「り、了解っ!!」

端末に内蔵されている音源・振動探知用のソナーを便りに、二人は来た道を全力で逆走し始めた。

「あ〜あ。やっぱりこうなっちゃうのね、とほほ…」
「そうだな。あの二人から依頼を受けると大抵ろくなことが無い」

わざとらしくしかめっ面を作るケイ。
そんな彼女の姿を見て、シスカは思わず吹き出した。

「それもこれも、お金の為だもんね?」
「仕事中はそーいうこと言わないでって言ったでしょ?!」

しかめっ面が途端に苦笑いになる。
笑うとなかなか愛嬌のある顔だ。

「そんじゃ、頑張って稼がなくっちゃね、先生!!」
「ったく、心配ご無用!さぁ、もう一仕事だ!!」
「OK!」

小さく微笑み合い、2人の女銃士は水路を駆け抜けていく。



 


 
 

第五夜...「みんなはひとりのために」
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