第五夜...「みんなはひとりのために」
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「む、何か聞こえるな?」
「えぇ、確かに。非常に高い周波数の強弱で信号を形成しているようですが…」

相変わらず疾走中のシンデンとイー・フリーナは、さまざまな機械が水に満たされた人工の地底湖の両岸を結ぶ橋上でその音を聞いた。

「何かの暗号か?」
「恐らくそうだと思います。特定の変調を一定間隔で繰り返してますから…」

思わず足を止め、その「音」を確認する二人。
その時!

キシャァァァァァァァァァッッッ!!!

「ぬ、これは……!」

水中から大きく鎌首をもたげ、咆哮する変異獣。
その姿を、シンデンはイー・フリーナの視線を通して見た。
ここまでくると変異獣と言うべきではないかも知れない。
それは、大きなムカデのようなものだった。ただし、体長は5mほどで、足は無い。
立派に別の生物へと進化を遂げたのだろう。

「くっ、一匹くらいならっ……!!」

ダムッダムッ!!

左手でヤスミノコフを連射するイー・フリーナ。
その弾丸は的確に相手の弱点であろう眼へと突き刺さる。
緑色の血飛沫を飛ばして悲鳴をあげ、水中へと没していくデカムカデ。

だが、その悲鳴を聞き取ったか一匹、もう一匹とムカデは数を増やしていく。

「ちぃ、多勢に無勢か……」
「まだ諦めちゃ駄目ですよ、シンデンさん!」
「分かっているっ!!」

絶望的な戦力差の中、次々と襲い掛かる触手のようなものを撃ち千切り、切り飛ばし。
時には素手で弾き飛ばして何とか退路を作ろうとする。

ダムッ、ダムッダムッ!!
ガキンッ!!

「えぇいっ!!」

弾切れと見るや、彼女は惜しげもなくヤスミノコフを放り投げ、背中にマウントされていたダークレーザーを左手一本で無理やりハードポイントから引き剥がし、怒涛の如く撃ちまくる。
本来両手持ちの武器の為、左手だけでは精度はかなり落ちるがこの際細かいことは言っていられない。

「最後はあいつだけです!あと5.23秒持たせます、頭を!!」
「おうっ!」

キシャァァァッァァァァァァァァァァッッッ!!!

「今ッ!!」
「ぬんっ!!!」

絶妙のタイミングで鎌首をもたげた怪物にイーフリーナのフォトンの銃弾とシンデンの渾身の力を込めたスライサーの刃がほぼ同時に相手の頭へと穿たれる。
攻撃の強度に耐えられなかったか、ムカデの頭が砕け散った。
しかし―――!

「やったか?」
「……!?、まだですっ!
 エネルギー反応急速上昇中っ…?そんな、まさか……!」

砕けたのは外骨格とも言うべきものだったらしい。
幾対もある単眼に怒りの炎を揺らし、大きく口を開けて二人を見据えるムカデの周囲には紫色の放電が見て取れる。

「馬鹿な!生体レーザーだとっ!?」

最後の攻撃で本来のフォトン充填タイミングを大幅にキャンセルした結果、酷使が祟り手元にある武器のフォトン残量は半ば尽きかけてしまっていた。
再充填には少なく見積もっても2分以上。それほどの長い間相手が待ってくれるとも思えない。
大半の遠距離攻撃力と稼働電力を失い、衝撃にはこれ以上耐えられそうも無い。
万事休す―――!!




 


 
 

第五夜...「みんなはひとりのために」
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