「こっちだ!」
断続的に響き渡る重火器の発射音。
誰かが戦闘を繰り広げているのは明らかだ。
隔壁の前で呼吸を整え、タイミングを測る。
2人の手には汎用性の高い小銃の中でも比較的高威力で扱いやすい、ヴァリスタが握られている。
「3カウントで飛び出すよ!」
「おっけ〜、任せといて!」
「……3,2,1」
「「GOっ!!」」
隔壁が開くと同時に突入する。
「Freeze!!そこ動くなっ!!!」
「馬鹿もん!!やめたら食われちまうだろーが?!」
そこは広大な人工地底湖だった。
巨大な怪物相手に橋のほぼ中央で、パンツァーファウスト片手に奮闘するのは
――紅いレイキャスト!
「ライデン?!」
「おぉ、やはりケイか。シスカの嬢ちゃんもそこにいるのか?
すまんが弾切れだ!30秒だけ肩代わりしてくれ!」
「っかたないわねぇ!」
苦笑しつつヴァリスタをホルスターに戻し、代わりに圧縮パックからクラッシュバレットに持ち替えて広範囲迎撃を開始するケイ。
本来この手の武器は無差別攻撃用途のはずだが、ケイ自身の緻密な弾道制御で味方にはかすりもしない。
「シスカ!撃ち漏らしの処理、お願い!」
「もうやってますっ!!」
シスカはケイから託された火薬式の名銃、ヤスミノコフ3000Rで的確に相手の目をつぶしていくという、アンドロイドレンジャー顔負けの精密な射撃をやってのける。
以前ケイが面白半分にシスカに撃たせてみたところ、フォトン銃よりも遥かにリコイルが激しく、そして扱いづらいはずのこの火薬式ライフルを初めてにも関わらず易々と使いこなしたシスカの天性の勘を見て感嘆し、それ以来、このライフルはシスカの愛銃となっている。
「待たせたな、真打ち登場だ!」
そして弾薬充填を終了し、再び猛然と撃ち始めるライデン。
轟音と薬莢が散らばる澄んだ音が響く中、恨めしそうな悲鳴を残してムカデたちが次々と倒れていく。
数分後、辺りは再び静けさを取り戻していた。
「ふにゃ〜っ、疲れたぁ……」
「助かったぞ、ケイ、嬢ちゃん」
へなへなと3000Rを抱え込んだまま座り込むシスカの傍らで、ほっとした表情(?)でライデン。
「まったく、こんな所でなに道草食ってるのよ!
"ジャッジハンマー"ともあろうものが聞いて呆れるわね」
腕を組んで自分よりも頭二つ分大きいライデンを真っ向から見据えるケイ。
ケイが軍の特殊部隊としてあまりにも有名なWORKSの元隊員だった、と言われればなるほどと納得できるだろう。
「すまん、合流するつもりでいたのだが。
あいにく馬鹿弟とイー・フリーナ嬢ちゃんを逃がしたところで囲まれてな」
「え、イー・フリーナさんて……。
ひょっとして、ウィル兄達が来てるの?」
へたり込んでいたシスカがふと顔を上げた。
「ほぅ、彼を知っているのか?」
「うん、前に一緒に仕事したこともあるし。遊びに行ったこともあるから…」
「ふむ…」
少々考えるようにカメラアイを細めるライデン。
「…ケイ。迷惑掛けついでにもう一つ頼まれてくれないか?無論それなりの礼はさせてもらう」
「ふぅ…そう来ると思ってたわ。頼まれてあげようじゃないの」
「君はこの先の区画にいるシンデンと、イー・フリーナ嬢ちゃんと共にこの施設から脱出しろ」
「えっ?」
意外といえば意外な申し出に、面食らうケイ。
「シスカはどうするのよ?」
「私は嬢ちゃんと共にウィルの援護に行くつもりだ」
「あ、あのねぇ!シスカはまだ経験がっ…!!」
「分かっている!」
いきり立つケイに厳しい声で一言。
「しかし、人選としてはこれしかない。あいつら2人はかなり消耗している。
シンデンがいかにジェネレータ装備でも、この先何処で進めなくなるか想像がつかん。
そして、もしその事態に陥った時、申し訳ないが嬢ちゃん一人では力不足だ」
「それじゃ、貴方が2人の援護に行けば良いんじゃ……?」
「もっともな意見だ。
しかし逆に聞くが、君はウィル達がいる階層を把握しているか?」
「!!っ…そっか……」
「そういうことだ。
それに、彼らがいるところへ行くにはここからかなり遠回りせねば到達できん。
馬鹿正直に進んでしまうとそれでは時間を浪費しすぎてしまうのでな…コイツを使う」
「それは……!」
ニヤリと笑うライデンが自らの身体を指さした先には、アンドロイド専用のウェポンが搭載された収納ベイがあった。
「そう、トラップで無理矢理こじ開ける!」
「…なるほど、わかった。確かに貴方にしかできないわね……。2人のことは任しといて。
その代わり、シスカを頼むわね」
「わたし行くよ、先生っ!ウィル兄達を助けに行こう、ライデン!!」
「すまん、2人とも。
時間が惜しい、今すぐ行くぞ!!嬢ちゃん、捕まれ!」
「おっけぇ♪」
シスカを抱き上げたまま、紅に塗られた鋼鉄の巨躯が壁に向かって突進する。
そして――。
「根性ーーーーーーっっ!!」
「うわっぷぅっ?!」
激しい爆音と煙と共に、2人の姿は隔壁の向こうに消えていった。
「やれやれ、相変わらずよねぇ。さて、私も行きますか!!」
呆れ顔で、ケイもまた退却する2人を追って行動を開始した。
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