―腕の毛細血管が千切れたか、腕全体からうっすらと流血したエミーナが鎌を振りかぶる。
ガキュィイッ!!
ウィルが左手に装備したセレスティアルシールドが障壁を発し、金属とフォトンがぶつかり合う耳障りな音が辺りに響く。
自分はどのぐらいこの光景を見続けているのか。ぼんやりと考え……
はっ、と唐突に意識がクリアになるアム。
ウィルの元へ駆け出そうとして……
「あぅっ!」
体が痺れ、立ち上がることすら出来ない。
「ウィル兄っ!」
倒れたままで気ばかりが焦る。
目の前で死闘を繰り広げているのは、決して失いたくない人たち。
しかしこのままでは、確実にどちらかが死ぬ。
「ええいっ!こうなったら…!!」
「アム、大丈夫か?!
気持ちは嬉しいが、この戦いには助太刀無用だっ!」
「でもっ!!」
「いくら意識を薬品で昂揚させているからって、身体には限界がある…神降ろしは諸刃の剣だ。
絶大な力を得られる代わりに、精神に異常を来し、キャパシティを超えた身体は破壊される!
彼女は…手遅れかもしれないが…これ以上彼女の心を傷つけるわけにもいかない!
……人間には…
いや、心を持つ者には……生まれてから皆一様に幸せに暮らす権利があるはずなんだっ!」
「ウィル兄……」
ふと、アムはこのクエストの初めから感じていた違和感の元が何だったのか、唐突に理解した。
ウィルは、ずっと怒っていたのだ。
別に感情を表に出していたわけではない。具体的に言葉を出したわけでもない。
表向き何も変わっていないように見えた。
がしかし、非人道的な事件が後を絶たない今の現状を彼はずっと嘆いていたのだろう。
その時だった。声が聞こえたのは。
『……ボクを…殺して…』
「「?!」」
慌てて背後を振り向くが、当然そこには誰もいない。
「どコ見てルンダよッ!」
一瞬の隙をついたエミーナの鋭い一撃がウィルの横腹をかすめる。
「チィッ!!」
『もう…嫌だ…よぉ…』
そしてその一瞬が、致命的なミスになった。
返す刀で振られた鎌にサバイバーを真っ二つに斬られてしまったのだ!
「っく、しまった!!」
右手を捻ろうとして鋭い痛み。少なくとも骨にヒビは確実だろう。
それだけ彼女の攻撃はスピードも重さも尋常ではないのだ。
利き手が使えなくなった今、彼には対抗策など残されていない。
エミーナが無表情のまま、死神の死の宣告の如く3撃目を振りかぶる。
一瞬が引き延ばされ、スローモーションに映るウィルの目に飛び込んできたのは、エミーナの涙だった。
「がぁぁぁっ!!!」
『いやぁ…ボク…こんな事したくない…
…誰か…止めて…止めてぇぇぇっっっっ!!!』
「駄目ぇっ!!!」
「間に合えーーーーっっ!!!」
ザンッッ!!
ガキィッ!!!
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