「?!っ」
エミーナの動揺の気配に、アムは目を開く。
ウィルの目の前に、守るように突き立った一本の大剣。
生きているかのように淡く明滅を繰り返すその大剣は、ドラゴンの意匠が刻み込まれていた。
「イヤッホ〜〜〜〜ッ!!!」
そして上から文字通り"降ってきた"人影。
見事に着地を決めると、その人影――白い服に淡い緑色の髪を持つハニュエール――はウィル達に振り向いた。
「助けに来ましたよっ!!」
「アヤっ?!」「アヤちゃんっ?!」
「邪魔をすルナぁぁァァぁッッ!!!」
「はぁっ!!」
突っ込んできたエミーナを、今度は上手く絡め取り、巴投げの要領で投げ飛ばすアヤ。
「ふぅン…オ姉さンも、遊んデくレルの?」
「機会があればねっ!」
エミーナは投げられた力に逆らわず、猫のように空中でくるりと身を翻してそのまま離れた所に着地した。
「す、すごいっ……!!」
アヤの機転に、思わず感嘆の溜息を漏らすアム。
武器を手放すというアイデアは、戦闘中咄嗟には思いつかないものだ。
しかも丸腰で相手に向かっていくというのは……相手がどれくらいの力量を持つか分からない場合、フォースは当然としてハンターでさえ自殺行為に近い。
だが、彼女はそれをあっさりやってのけた。
ウィルと同等か、それ以上の技能を持っていなければ出来ない芸当だ。
「恩にきるっ!!」
「お互い様です♪
レスタっ!!シフタっ!デバンドッ!!」
矢継ぎ早にショートカットを駆使して繰り出されるテクニック。
ニューマンである彼女の精神力に呼応し、それは強力な防御場となってウィルの体を包む。
「ウィル兄、そのドラスレを使ってっ!私は、アム姉を!!」
「頼むっ!」
――それに引き換え。
今の我が身はどうだろう。
不意をつかれたとはいえ、あっけなく気を失い…足手まといでしかない。
本来、テクニックでの支援はフォースの役目のはず。
それすら、満足にできないようでは……。
「アム姉っ!!」
「ほにゃっ?!」
いきなりぼふんと抱きつかれ、頭の中が真っ白になるアム。
ついでにネガティブ思考に陥っていた気持ちまでどこかにすっ飛んでいってしまった。
「シスカから、このままじゃ大変なことになるって連絡が入って…
嫌な予感がしてたんだけど……。間に合って…よかった…」
アムの胸元に縋り付いたまま、涙ぐんだアヤを見てふと気づく。
今まで自分は、一人で何とかしようと考えていたのではないか?と。
ウィルや、政府専属の仕事もこなすアヤ、シスカ。
あのおちゃらけ男のソーマとシーガル。
イー・フリーナやライデン達も。
トップハンターに名を連ねる者達ですら、当然ながら全ての事象に対して万能というわけではない。
そんな時だからこそ彼らは助け合う。見返りなどは端から気にしない。
「…英雄は、一人じゃ…ない、だよね」
「ふにゃ?」
「あ、なんでもないよ」
「こちらアヤ!
シスカ、聞こえる?今ウィル兄達と合流…」
思わず呟いた言葉を聞かれて顔を赤くするアム。
と、その時。
「……ん?」
「…どうしたの、アム姉?」
「静かに…っ!」
壁にもたれかかっている彼女しか分からない、体に響いてくる微細な振動。
「…地震…?」
「でもここ、地下だよ?」
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