第五夜...「みんなはひとりのために」
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「よかったぁ、ウィル兄もアム姉も無事なんだね。
  わたし達もすぐ行くから、もう少し待ってて、アヤ!」
『ちょっとヤバそうだから、早めに来てね!』
「了解!…それはそうと…ライデン!
 もー少し乗ってる人のことも考えてよね〜!!」

アヤからの通信にほっと胸をなでおろしたシスカは、ライデンの肩の上で自分の格好を見て、
大きくため息をついた。

「仕方あるまい。我々には時間がないのだ」
「その台詞はいろんな意味で聞き飽きたニャ〜!!」

連続で構造材をトラップでぶち破った挙句、目の前にムカデがいたことで強制的に戦闘にもつれこみ、ホコリまみれになったのだ。
ヒステリーの一つも起こしたくなるだろう。
そんな彼女を楽しげに見つめる一対のカメラアイ。

「行くぞ」
「当たり前でしょっ!!ウィル兄達を助けに行かなきゃ!」
「その意気だ!根性〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
「だから、それはやめてぇっ!!もう、嫌ぁぁ〜〜〜〜(涙」

言いつつ、どこから出したかバズーカを目の前の隔壁に向かってゼロ距離でぶっ放すライデン。
またもやホコリまみれになったシスカは、涙目になりつつイヤイヤをしながら叫ぶのだった。

「ん、地震…?」
「どうした、ケイ?」

思わず周囲を見回したケイに、傍らのシンデンが声を掛ける。
背中のイー・フリーナも不思議そうな顔をする。

「かなり下の階層でしょう。
 先ほどから連続で小さい微動が発生しています」
「さっすが元偵察用♪詳細位置とかって分かる?」
「この位置からでは、なんとも…。
 …!っ、地下最深部から巨大なエネルギー反応を検知!!」

ドクンッ

鼓動を打つかのように、床が大きく揺れた。
たまらず傍らの壁にすがり付く3人。
その間にも、床の揺れはその間隔をどんどん縮めていく。

「な、なにが起こってるのっ?!」
「わかりませんっ!エネルギー反応、なお増大中!」
「とにかく、一旦ここを出るべきだな」

冷静なシンデンの一言に、ケイが顔を上げる。
眼鏡の下のその表情は、フォトンライトの鈍い緑色の光に反射して窺い知ることはできない。

「……あんた達は、このまま脱出して。後はまっすぐな一本道だから」
「ケイさんっ?!」
「あたしは、シスカの、みんなの援護をするわ」
「しかし、今戻っても――」

そんなことは分かっている、とばかりに人差し指を軽く振るケイ。
それから、一つため息をつき。

「あんた達が一番の大怪我でしょうがっ!!
 行きなさい!"経験者"の言葉は、ちゃんと聞くものよ?」

優しく、厳しく。
諭すようにイー・フリーナとシンデンに語りかけた。
ケイがWORKSを抜けるきっかけになった出来事が、過去に起きたとある事故であった事を二人が知るのはずっと後のことだ。

「…分かった。心遣い、感謝する」
「そんなっ、シンデンさん?!」
「我々が参加できるのは、残念だがここまでだ。
 君とてこのままでは長くは持ちそうに無い。自らの安全を保証できずして、どうやって皆を待つのだ?」
「そ、それは…!」
「我々は逃げるのではない。皆の為の退路を切り開くのだ。行こう、"イフィ"」
「!?っ、、ハ、ハイ……あ………。
 [主電源、及び予備電源の電圧を維持できなくなりました]
 [各部位において、稼動障害発生中...各部フェイズシャットダウン...完了]
 [強制スリープモードに移行します]………」
「よろしくね」

とうとう内蔵された有機電池が限界を超え、微笑んで眠るように機能を停止したイー・フリーナを背負ったままシンデンは一つ頷き、立ち去った。

「無理はするな」

一言、言い残して。

「…行った、か。
 あの子達には…まだ知らない方がいい事もあるからね…」

二人が完全に姿を消してから、ふと、寂しそうな笑みを浮かべるケイ。
が、それも一瞬の事。
腕の端末から地図を呼び出し、自位置と、シスカとライデンが通ったと思われる予想経路から最短と考えられるルートを割り出す。
壁の裏にエレベータカーゴのレールが通っていることを確認した彼女は、おもむろに腰に括り付けられている小さなポシェットから粘土状の物を取り出し、壁に盛りつける。
信管を挿し込み、導線を長く伸ばし、そして―――。

どがんっ!

大きめな振動と破砕音。
壁は綺麗に吹き飛び、下へ下へと続く暗いエレベータ坑が姿を表していた。

「よしよし、お誂え向きに開いてくれたわね。それじゃ…」

今度は圧縮パックからモータウィンチ付のワイヤを取り出す。
かぎ爪が壁に、ワイヤの先端が自らの身体にしっかり固定したのを確認して、ケイは暗い坑へと身を躍らせた…。


 




 


 
 

第五夜...「みんなはひとりのために」
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