第五夜...「みんなはひとりのために」
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「さて、ここが最後みてーだな…」
「気を抜くなよ、ソーマ」
「分かってる…。さぁ、一丁派手に行くかぁっ!!」

通路の終点。巨大な隔壁が閉じた場所へとシーガルとソーマの二人は辿り着いていた。
ソーマの両腕に炎が灯り…そしてそのまま両の拳を隔壁へと殴りつける!

「だぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

気合を込めると、炎の色は赤から青へ、そして白へと変わっていく。
その高熱に耐え切れず、隔壁は溶け落ちて道が開いていく。

「へっ、ざっとこんなもんだい♪」
「へいへい。いつ見てもとんでもないよな、お前の技って」
「ふふん、もっと誉めよ称えよ♪」
「…誉めたわけじゃなかったんだがな…」

豹変したエミーナを見てから。
シーガルは"ニューマン"という存在が分からなくなっていた。
より明確に言えば、秘める力に対して恐怖感を抱いたのか。
彼の父は、常日頃から「ニューマンはヒューマンのパートナー」だと言っていた。
ヒューマン単体では困難であっても、彼らと協力することでより高みへ行ける、と。
外見のみならず、身体的な構成は一部部位を除けばヒューマンとなんら変わらない、人工生命体ニューマン。
しかしヒューマンより強靭な肉体と精神、適応能力の速さは、一歩間違えばエミーナのような生体兵器を簡単に生みだしてしまう。
また、一時の快楽の為に創られるニューマンも多いと聞く。
「使い捨てられる人形」の顔と「人類のパートナー」の顔、
どちらがニューマンの本当の姿なのだろう……?

「シーガル!ぼさっとしてんなって!!」
「お、おうっ!」

遅れていた歩みをソーマに合わせる。
そうだ、今はそんなことを考えている暇は無い。
それにどちらが本当なのかなんて、彼等自身が決めること。
価値観は押し付ける物じゃない、個人個人の心から生まれるものなのだから。

「ま、グダグダ考えても始まらんか」
「どした?」
「お前さんのお気楽癖、何とかならんかと考えてたんだが…どーにもならなそうだ、って思ってな。
 諦めてたところだ」
「へぇ、それはご丁寧なこって」

ちょうど十歩――。
二人同時に足を止め、視線を前に見据える。

「…ここまで追いついてくるとは……正直呆れたぞ。仲間を見捨ててくるとは、な」

暗い通路の中。
ひっそりと立つ白衣の男。

「ご期待に添えなくて悪かったな。協力者は、俺達だけじゃないんでね」

肩のギガッシュに手を掛け、シーガル。

「こちとら、あいにく諦めが悪くてな…。
 …律儀に待っててくれたところ悪いんだが、それを後悔させてやるよ!」

片手に拳を叩きつけるソーマ。

「こちらも、そう簡単に捕まるわけにもいかん…」

ニィとイヤらしい笑みを浮かべ、突如白衣の男の身体が四散する!
同時に、鼓動を打つかのように三度床が、また大きく揺れた。
さきほどより間隔が短くなっているようだ。

「自爆だと…?」
「いや、ソーマ。
 あいつ人間じゃないぞ!!」

その通りだった。
四散したのは、オプト・グラッハルの「カタチ」をしていたアンドロイドだ。
と、いうことは―――。

『ヒューマンなどという不完全な入れ物に、私が満足しているとでも思ったかね?』

四散したアンドロイドを踏み潰し、暗闇の奥から現れたのは機械と生体の考えられる限り最悪の混合体(ハイブリッド)だった。
体躯は先に出てきた重移動砲台ほどあるだろうか。
ホヴァータイプの脚部に2対ある、いかにもゴツイ両手には剣呑な武器が握られている。

『やれやれ、相変わらず出来損ないの癖にまだ私に刃向かうか、ソーマ?』

ややくぐもった声で、オプト「だったもの」がソーマへとカメラアイの視線を投げかける。

「――狂って、やがる…。
 ケッ、相変わらず趣味は最悪だなおっさん。
 コンパニオンのオネーサンとまでは言わねぇから、もちっと気の利いたもの用意してくれねーのかよ?」

色々な感情を瞳に映し、一呼吸おいてオプトを改めて睨みつけるソーマ。

『…いつまでその減らず口が続くか楽しみだな。
  まぁいい、私の研究の邪魔をここまでしてくれたのだ。
 それ相応の代価を支払ってもらわねば、な。
 ――貴様らには死んだ後に生体兵器の素材になってもらうとしようか』
「矛盾してんな。
  死んだら最後、生ごみにしかならないことはあんたが一番知ってんじゃねーか。
 …最も、ここで生ごみになるのは俺たちじゃねぇ…。
 ガキがいつまでもガキでないことを、俺が証明してやる!!
 覚悟しやがれ、この死に損ないのポンコツめ!
 粗大ごみにすらならねーようにしてやらぁ!!!」




 


 
 

第五夜...「みんなはひとりのために」
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