『何故…何故…?』
世界はどこまで行っても闇色だった。
視界はほぼ無限大。天井も無ければ、床もない。
その中の、たった一つの水滴のように、白い色が存在している。
その身体は空間に融けていくかのように半透明。境界はあやふやになっていた。
そして、その存在は今まさに消え去ろうとしている。それほどまでにそれは傷つき、疲弊していた。
『何故…』
小さく呟く。
元より返答など期待していない。自分のほか、誰もいるはずが無い。
ここは、精神の檻なのだ。
"力"が創った、エミーナという精神を二度と表へ出さぬ為の。
普通の精神の持ち主では恐らく数時間で発狂し、壊れてしまうだろう。
彼女は逆に良くもったほうだと考えるべきだ。
そんな中で、空間のひび割れから染み入るように飛び込んできた映像。
『!!』
―――大きく振られた鎌に弾き飛ばされるウィルとアヤ。
―――シスカを庇い、胸部装甲が大きく抉り取られたライデンと、その背後からヤスミノコフ9000Mを乱射するシスカ。
―――脂汗を浮かべ、苦悶の表情を浮かべつつも残った精神力を掻き集めようと必死になっているアム。
皆の表情がフラッシュバックし、そして――消えていく。
『何故…?
もう…結末は変えられないのに…何故…ここまで…?』
急にエミーナは悲しくなった。
今までこの中で何も表現できえなかった感情。
それが…素直に出せていた。
『…ヒ…クッ……う…』
それに気付かぬまま、 押し殺した声で彼女は涙を流す。
ただ、悲しくて悲しくて。
自分が何も出来ないことに。
皆がこのままでは失われてしまうことに。
(…人間の純粋な意志とは、何とも強いものだ…)
(…時として、自らを犠牲にしようともそれを実現しようとするその意志の力……)
『誰?!』
闇に響いた声に、反射的にエミーナは問うていた。
問うて、あの粗暴で殺戮を求めるだけの"力"のココロなのだろうと思う。
自分の中にはそれしかいないはずなのだ。
……でも、この暖かさはなんだろう?
(そなたを生まれた頃から見守ってきた者、では駄目かな?幼き少女よ)
再び掛けられる声。柔らかく、暖かな。
『姿を見せてよ!』
その暖かさに逆に不安になり、エミーナは空間へと向かって声を荒げる。
それと同時に、彼女の目の前へ新たな色。
乳白色の光。
それが、徐々に人の形を取る。
『これなら、どうであろう?』
ふわり、と微笑む金色の瞳の女性。
翠の光を発する艶やかな髪は長く腰まで伸び。
身体も手足が伸びきり、女性らしいふくよかなラインを湛えている。
『ボ…ボクが…もう一人…!?』
そう、彼女の姿は金色の瞳を除いて、エミーナにそっくりだった。
ただし、数年後の成長した姿で。
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