最終夜...「ひとりはみんなのために」
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『不安がることは無い。
 我はそなたに宿った身。そなたの姿を借りるのも当然であろう?…おいで』
『…あ』

何時の間にか、エミーナは彼女の豊かな胸元に自然に納まっていた。

『やっと…二人きりになれたね…』

エミーナを膝の上に載せ、背中から軽く抱きしめながらにこっと微笑む。
背中から伝わる暖かさ。包まれる安心感。
本来感じるはずの無い、心地よい感覚にエミーナは酔い、そして戸惑う。

『あの…貴方は…?』

言いつつ見上げると、彼女の金色の瞳と目が合った。
穏やかな、それでいて悪戯っぽい光を浮かべた"もう一人のエミーナ"の微笑みに見惚れ、
とくん 、とひとつ高鳴るエミーナの胸。

『…我が名は…アルディス。光の聖女と言われている者――』
『…?!』
『貴様…まダ生きテイたノカ?!』

傍らに突如生まれた黒き意志。
それが、言葉とともにエミーナ達を襲う。

『……伝承は、正しくは伝わっていなかったようだな…。
 光の巫女の中に、オリゲルドですら対処できぬ闇を作り出すとは…』

その衝撃を腕で払いのけ。
言いつつ、前方の闇を睨むアルディス。

『何をごチャゴちャ言ってイル?!消エて無クなレ!!!』
『…闇を裁くのは、そもそも我の仕事ではないのだがな…』

苦笑。
言って、胸元に抱え込んだままのエミーナに視線を落とす。
一つ頷き、再び前を見る。

『…エミーナ、我は問う。
 そなたは、生きたいのか?…それとも死にたいのか?』
『え…?!』

つい先ほどまで、無くなる命などいらないと思っていた。
妹すら助けられない自分などいらないと。
しかし、今は――――。

『…分からない』
『フハハッ…自分ノ生死すラ決めラれヌ者ニ、語るダケ無駄ダ。
 ならバ、そノマま消エてシまうがイイ。貴様ナド、取るニ足ラなイ存在ダ!!』

嘲笑する闇。

『…あくまで破滅を望む、か。
 宿主がいなくなれば貴様も存在できなくなるであろうに…』

ふぅ、とため息。
呆れたというようにアルディスが呟く。

『…私が成り代ワレばイい。
 今出来ているノだ、出来なイコとは無イ!』
『それが油断だと何故わからぬ?寄り代が疲弊していることすら、貴様にはわからぬのか。
 寄り代が死ねば、貴様もまた消滅するのだぞ?』

出来の悪い生徒に一から説明するように闇へと問い掛ける光の聖女。

『五月蝿イ!貴様ごト屠ってクレる!!』

しかし、闇は癇癪を起こしたように再び殺意を剥き出しにした。

『…力でなければ納得できないのか?…我はこの娘を気に入っている。
 貴様がその態度を崩さないのなら…。
 我は全力で貴様を殲滅する……!』

 


 
 

最終夜...「ひとりはみんなのために」
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