「駄目だ、心拍数急速に低下!」
「応急キットは?!」
「んなものあればとっくに使ってる!」
懐かしい声。
その声に、自然と頬が緩むのを感じる。
「エミーナ…」
そんな悲しそうな声を出さないで。
ボクは…生きているから。
みんなと生きる為に、帰ってきたのだから。
(…っ!)
全身に力を込める。
手も…足も…大丈夫。
そして彼女は「金色の」瞳を開いた。
「心拍数が…?!脳波も通常状態に戻った…だと?瀕死状態から戻ってくるとは…!」
「大丈夫か、エミーナ?」
こくん、と頷き、胸を一撫で。
それだけで、切り裂かれた胸の傷はおろか、身体中の全ての傷が元々無かったかのように消え失せた。
そのままゆっくりと立ち上がる。
身長が伸び、子供の特徴を残していた身体は成熟した女性のものになる。
腰まで届く翠色の髪がふわりと舞うその姿は、白い貫頭衣と相まって天使か女神のようにも見えた。
「「「なっ?!」」」
「助けてくれて、ありがとう」
はにかんだ、その笑顔だけは変わらずに彼女は金色の瞳を細めて微笑む。
「一体…?」
「わたしが、エミーナであってエミーナでないから、です」
「…どういうこと?」
シスカが眉をひそめる。
「わたしの名は…エミーナ=アルディス…。
彼女とは別の人格、と申しましょうか…最も、今現在の段階では間借りしている状態なのですけれど…」
「…アルディス…って?!光の女神、あのアルディスなの?!」
「はい。
希望と勇気を示すシルファリオン・アルディス…と、言われていますが…。
自分で言ってると何だか恥ずかしいですね」
アヤの驚きぶりに、照れたようにぽりぽりと紅くなった頬を掻くエミーナ=アルディス。
基本的な動作はエミーナのものらしい。
「ともかく、細かい話は後です。
詳細はエミーナから伺いました。ライデンさん、残り時間は?!」
表情を引き締め、アルディスはライデンに顔を向ける。
「残り2分を切った」
「ウィルさん、アヤさん、シスカさんはアムさんの周りに集まってください。
ライデンさん、無茶を承知でお聞きします。単独での脱出は、可能ですか?」
「ふむ、本当に無茶な注文だな。
が、単独であれば1分10秒ほどあれば問題ない」
ギリギリだろうがな、と苦笑するライデン。
「何故ライデンだけ単独なの?!」
シスカが怒ったようにアルディスへ詰め寄る。
「こういう言い方はあまり良くないのですが…"精神力"を持つか否かの差です。
精神力を持たない方はリューカーで空間を渡る時、死重になってしまいます…その…」
「皆が生き残る確立を上げる為だ、わたしは構わんよ」
言いにくそうなアルディスの言葉尻を続けて、ライデンは肩をすくめた。
「ライデン……」
「そういう顔をするな、シスカ。
会えなくなるわけではない、再び出会うためだ」
鉄面皮のそのカメラアイが、優しげな光を宿しているように思えてシスカは急に泣き出したくなった。
「…シスカ」
その肩を優しげに抱きしめるアヤ。
「……アヤ…。うん…」
その光景を同じように優しげに見つめていたアルディスは、視線をアムへと向けた。
汗まみれで、目の下にはクマまで出来て憔悴しきった顔をしている。
荒い息を吐きながら、通信機で何事か言葉を交わしていたアムの視線がアルディスの視線と交錯する。
「エミーナ…」
苦しげに、でも微笑んで。
「一緒に、帰ろう…私達の家へ!」
「はい!」
しっかり頷く二人。
「わたしがイメージを送ります。
アムさんは自分が飛びたい場所へ誘導してください!」
「わかった!」
「ウィルさん達は私達の周囲で手を繋いで円陣に組んでください」
「「「了解!」」」
「ライデンさん、ご面倒をおかけします」
「皆まで言うな、こういう事はそうあるわけではない。
楽しませてもらうさ」
親指を立て、ウインクしてみせるライデン。
「行きますよ…」
言って、アルディスは瞳を閉じ、アムを優しく背後から抱きしめた。
アムが、アヤが、シスカが、そしてウィルが一斉に瞳を閉じる。
爆発まで、残り1分45秒―――!
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