最終夜...「ひとりはみんなのために」
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「……!」

やがて、彼らは一斉に木陰から飛び出してきた。
その数、20体以上。

「だっしゃあぁっ!!」

妙な気合いと共にドラゴンスレイヤーで敵を一刀両断に切り捨てるウィル。

「せぇぃぁぁああっ!!!」

こちらは鋭い居合。
演武のように華麗に、的確に、デモリションコメットのフォトンの刃を敵にヒットさせていくアヤ。

「皆に一本たりとも手出しはさせないからね!!」

左手にヤスミノコフ9000M、右肩にはフォトンランチャーを担ぎ上げて、ほとんどランボーの如き怒濤の勢いで撃ちまくるシスカ。

「わたしだって、荷物になるわけにはっ……!」

アムは残り少ない精神力をかき集めてシフタとデバンドを発動させる。
3人の身体に紅い光と蒼い光が舞い始めたのを確認して満足そうな笑みを浮かべたまま、彼女はふらりとその場に倒れ込んだ。

「アム!?」
「大丈夫!精神力の使いすぎなだけです!」

ウィルの心配そうな声に、テクニックをメインに切り替えて周囲への威嚇攻撃を実行していたアヤが怒鳴る。
"雪兎"と二つ名で呼ばれる彼女の真骨頂は、体術を駆使した予測不可能な攻撃と、精通したテクニックで敵を殲滅する所にある。
それゆえ限界時の症状などは熟知しているのだ。

「やっば、こんな時に?!敵に増援!」

言った途端にシスカの手元でロック音。
ついにヤスミ9000Mの弾が尽きたのだ。
同時にフォトンランチャー自体もチャージをしなくなってしまった。

「くっ……このぉっ!!!」

腰のマウントに9000Mを戻し、故障したフォトンランチャーを敵に投げつけ気合いでもう1機仕留めたシスカは、背中のハードポイントから黄色のフォトンの光を宿したパルチザン――"グングニルシリーズ"と名付けられた高LV者向けの長刀――を滑らかな光の軌跡を描かせて引き抜いた。

「手出しさせないって、言ったでしょう!」

不用意に近づいてきたヒューキャストタイプを、一撃の下に切り伏せるシスカ。
キャスト部隊の間に動揺が広がる。
この小柄な少女レンジャーが射撃以外…それも格闘に精通しているなどと、信じられなかったのか。

「この間のウィル兄の講義が役に立ったよ!」
「アヤもシスカも飲み込み早いから助かるよ」
「あはっ♪それじゃ私もっ!!」

アヤの手元に出現したのは、一見何かの生物を思わせる有機的なデザインの長刀―ガエボルグ。

「誰にも、私達の邪魔はさせません!!行きますっ!!」

前方に展開していたレイキャストタイプの一団を、アヤのガエボルグの刃が捉えた。
素早い踏み込みと力強い振り抜きで、彼らの胴が宙に飛ぶ。
更に至近距離に近づいてきたヒューキャストタイプには、左手に持ったデモリションコメットを片手一本で器用に操り、敵へ確実にダメージを与えていく。

「相変わらずアヤって器用だよねぇ。どうやったらそんなこと出来るのかな…?」
「んもぅ。シスカだってやってたじゃない…」
「これは俺も頑張らないとな」

2人の物言いに苦笑したウィルは、エミーナの手元に落ちている鎌を取る。
彼女の唯一の持ち物だったものだ。
エミーナの憑き物が落ちたかのような安らかな寝顔を見て、一つ頷き、鎌を握り締める。

「…エミーナ……君を過去には潰させない。
 今、ここで断ち切ってやる!」

手に取ると、程良い重さと共に刀部分がうっすらと紫に光る。

『ク…フフ…ヨリシロに成ル事…を自ラ望んデ来タカ…、男ヨ…』
「鎌よ…俺と共に敵を倒せ!倒し、思い知るがいい!
 貴様ではエミーナを…いや、人など支配などできないということをな!!」
『……小癪ナァッ!我ガ力、見クビるナヨッ!貴様ナゾすグにデモ…!!』
「…鎌が、その子を操ってた、の?」

鎌の声が「聴こえた」のか、シスカが気味悪そうにウィルの持つ鎌を見上げる。

「いや。正確にはこの鎌は、ヨリシロの元になるものなんだろう。
 エミーナから引き剥がされた今、これが「精神体」そのものであると言っても間違いないだろうね」
「と言うことは、その鎌を壊さない限り、エミーナさんは苦しみ続ける、と?」

相変わらずガエボルグを無駄のない動きで縦横無尽に振り回しながらアヤが問うた。

「……だろうな。だからこいつが満足するまで使ってやればいい。それこそ、壊れる位にね!」

ウィルに隙が出来たと思ったか、比較的動きの早いヒューキャストタイプが3機近寄ってきた。

「丁度いい、刀の錆ならぬ、鎌の錆になって貰おう!どりゃぁっ!!」

ザシュンッ!!

一撃の元に切り伏せられ、霧状に消えるヒュ―キャストタイプ。
よく見れば、鎌が「何か」を吸っているのが分かるはずだ。

「来るなら来てみろ!お前らには絶対に負けないからな!!」
「また増援…今度は多い!!」

シスカが緊迫した声を挙げる。

「何っ?!」

次に降下してきた黒ずくめのキャスト達は先行したチームから交戦データをサーチしていたらしい。
狡猾にも全機が火器に持ち替えた上で圧倒的な火力で押しつぶしにかかったのだ。
相手に対して数で勝る場合の有効的な手段であることには間違いないだろう。
更にいつの間に近づいてきたのか、一旦離れていた3機の"スレイプニール"床部に備えられた対地支援用ガトリングガンで一斉射撃まで始めた。
3人がいた辺りには大穴が穿たれ、見るも無残な状態になっていく。

「おいおい、こんだけこの惑星の生態系破壊しといて、まだ足りないなのかよ?!」
「んもうっ!か弱い女の子4人もいるのに、これは無いでしょうっっ!!!」

ウィルやアヤが文句を言っても当然聞いてくれるはずも無く、壊れたシャワーの如く雨あられと大口径のフォトン弾は無慈悲に彼らの頭上へと降り注ぎ、遮蔽物としていた樹木やら、岩やらはあっという間に削られていく。

「…くっ!
 こんなところで、負けらんないよっ!!」

言って、シスカはヴァリスタを遮蔽物から撃って応戦するが、10倍になって帰ってくる弾丸。
なにしろ周囲は敵一色なのだから。

「ウィル兄!まずいよ、アム姉のところに敵が!!」

シスカの報告に、ウィルの表情が歪む。

「ちっくしょ、人質を取るたぁ最近のアンドロイドも随分狡賢くなったもんだな!!」

…いや、待てよ。
簡単に切り捨てたオプトの行動から考えて、エミーナやティアナは重要な素材とは考えにくい。
実験素材を取り返すのが目的で無いとすれば……。

「アヤ、シスカ。俺が捕まってもし人質なんぞになったら…俺の事は無視してくれていい。
 アムとエミーナを救出することだけ考えてくれ」
「「?!」」
「ハンタースーツを着てる状態なら、撃たれたところでそうそう弾が貫通することなんて無い…結構痛いけどな。
 相手にそれで意表をつけるかどうか分からない。
 しかし相手が「俺達の拘束」では無く、「俺達の殲滅」を望むなら、皆ここでジ・エンドだ」
「でもっ…!」
「ウィル兄…!」
「お前さん達には、生きて欲しい」

にっ、と笑みを浮かべるウィル。

「…死ぬのなら、俺一人で十分だ」

 


 
 

最終夜...「ひとりはみんなのために」
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