「貴様らの好きにはさせんっ!!」
弾幕の支援の元、アムとエミーナを捕らえようと接近してきたヒューキャストタイプの動きを阻止すべく、ウィルは捨て身の突貫をかけた。
しかし…。
「ウィル兄!危ないっっ!!!」
「くっ?!」
咄嗟にフォトン弾の集中砲火をドラゴンスレイヤーと鎌とでで受け流そうとするが、死角から撃たれたフォトン弾の衝撃に抗いきれず、鎌は砕け散り、大剣はウィルの手から弾き飛ばされてしまった。
「ちぃっ、隠れてやがったかぁ!?」
弾け飛んだドラゴンスレイヤーを勝ち誇ったかのようにウィルの首元に突きつけるキャスト。
紫の装甲を持つこのヒューキャストがリーダーのようだ。
「くっ…」
倒れこんだウィルには、アムとエミーナにマシンガンを突きつけているヒューキャストタイプの姿と、シスカとアヤが隠れている大岩が見えるだけだ。
岩に向かい、首をしゃくるキャスト。出てくるように呼びかけろと言うのか!
「ウィル兄?!」
「俺のことはいい!出て来…ガッ?!」
勢いよく蹴り上げられる。
右脇が焼けるように痛い。肋骨が折れたらしい。更に右手を踏み躙られる。
「がアァあァッ!!」
ウィルの苦しみ様に、思わず視線を逸らすアヤとシスカ。
彼にとってはその表情を見ることが、自分の状態より辛く感じた。
(…参った…逃げろって…言ったのにな…。
…くっそ……このままじゃ…全滅…か…?)
正直不甲斐ない、と思う。
ここまできて、最後の最後で皆を守り切れなかったか…。
『諦めないで!!クライアントからのチャーター便、ただ今到着よ!!』
「「「?!っ」」」
上空から聞き覚えのある女の声と共に、突如吹き荒れる暴風。
続いて軽い発射音とともに監視用に残っていた"スレイプニール"に空対空ミサイルが命中し次々と撃墜されていく。一瞬周囲が暗くなるが、反射的に見上げた空には何もない。
その空が、熱工学迷彩特有の虹色の滲みを作ったかと思うと次第に何かが姿を現し始めた。
――SV-998z"ネイディア"。
ティルトローターのV/STOL機の最高傑作と言われるガンシップである。
IFFは――ハンターズギルド所属!?ハンターズにこういう機体は所属していないはずでは…?
そして、後部ハッチから姿を見せたのは…。
「待たせたな、ここからは俺たちに任せてもらおう!」
自らの身体の大きさ程もある斬馬刀――その昔、戦場で馬ごと叩き斬る為に発案されたと言う大型両手刀――を、軽々と振り回して肩に担ぎ上げる黒いヒューキャストと、
「人質を取るとは言語道断!!我が剣の錆にしてくれん!」
半透明な光の大剣――"白髭公"ヒースクリフ・フロウウェンが使っていたことから"フロウウェンの大剣"と呼ばれる業物――をかつての騎士のように構えた紅いヒューキャストの姿。
二人は一気にワイヤなしに飛び降り、ウィルを押さえつけていた一体とアムとエミーナにマシンガンを突きつけていた一体とを同時に屠る。
『ちょっと敵から離れて!蹴散らすわよっ!!』
先の女の声が言うが早いか、"ネイディア"の機首に装備されたガトリング砲のターレットが回転。
嵐のような機銃掃射が始まり、遮蔽物ごと吹き飛んでいくキャスト達。
「カラスさん、それにラモラクさん…?!」
アヤの驚く姿を尻目に、苦笑するようなジェスチャーを見せた紅いヒューキャストが叫ぶ。
「ハーヅウェル卿、借りを返しに来たぞ!」
「貸したつもりは…なかったんですがね…」
素早くウィル達のバックアップに入る2人のヒューキャストの姿は、見知ったものだった。
アヤとシスカにも二人の姿は見た事があった。
比較的細身の黒いヒューキャストがカラス。
外見は黒い装甲で統一され、鋭角的なフォルムと共に近寄りがたい雰囲気を持っているが、その実彼の性格は明るくて大らか。鼻歌交じりに軽々と斬馬刀を振り回して敵を打ち砕く、頼もしき友人だ。
もう一人、ヒューキャストの中でも大きな体躯を持つ紅い彼がラモラク。
もともと人間だったと聞くが、複雑な経緯で今はヒューキャストに身を宿している。
その外見と、騎士道精神溢れる性格から、最近ハンターズの中でも注目されているらしい。
「へへっ、どうやら一番美味しいところで助けにこれたみたいだな、ウィル?」
残存した敵をバッサバッサと斬馬で切り倒しつつ笑うカラスに、倒れたままで苦笑を返すウィル。
「助かったよ、カラス。それからラモラク卿!」
「応!!お互い様だ!」
「うむ、無事で何よりだ」
一つ頷き、再び敵の一番多い所へと飛び出して行くキャスト2人。
直後、ウィルの背後からいくつもの火球が飛んできた。たちまち5機のヒューキャストが巻き込まれ、はじけ飛んでいく。
「おお、カラス殿!ラモラク殿!!しばらくでござった!ご助力、感謝いたす!!」
「その声、“紅き裁槌”か!ユトレイト戦役以来だな」
茂みから飛び出してきた紅いレイキャストに、ラモラクがふと動きを止める。
その隙にハンタータイプのキャストが襲い掛かるが、あっという間に薙ぎ払われた。
元の実力の差がありすぎるのだ。
「お、ライデンじゃないか!元気にしてるか?!」
「相変わらずだなカラス殿。こちらは変わりないぞ」
「おぉ、そうするとお二人が噂に聞きし兄者の戦友殿であったか!!」
「弟分も元気そうだな。まぁそんなところだ」
シンデンの暑苦しさに少々辟易としながら、カラス。
☆
「な、何が起こっている?!」
ブラックペーパー、前線基地。
初老の顎髭を生やした男が、薄暗い司令室でうろたえた声を出した。
3機いた"スレイプニール"が、一斉にロストしたのだ。
連動するかのようにデータリンクしていた軍事衛星回線すらまともに使えなくなり、研究所からのデータも受け取れずに孤立無援となった前線基地。
一切ロックされた中で唯一生き残った回線は勝手に所在を教えるメールを政府公安部や軍部、大手報道機関各社へと発信しつづけている。
試してみるが…入力は受け付けてくれさえもしなかった。
「な…何が起こっている…。
お…俺たちは…一体何を敵に回したんだ…?!」
がく然と、彼はその場に膝をついた。
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