最終夜...「ひとりはみんなのために」
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「…アムちゃん!」

倒れているアムを見たソーマは、途中道をさえぎったヒューキャストを火祭りに上げながら普段見せないような狼狽した表情で彼女に駆け寄った。
外傷がないこと、息があることを確認した彼は、大きくため息を吐く。

「シーガル、エミーナの様子は?」
「あぁ、こっちも大丈夫。ラモラクの旦那とカラスのおかげだな、こりゃ」

エミーナと、ティアナ。
眠っている二人の娘を両脇に抱え込んであぐらをかいて座るシーガルの姿が妙に馴染んでいて、ソーマはくすりと笑った。
…彼女らに、これから幸多からん事を。
血こそ繋がっていないものの、ある意味ソーマの"妹分"にあたる彼女達には幸せな道を歩んで欲しいと心から思う。

「そんで…ほんとにお疲れさん、アムちゃん…」

アムの頭を膝に乗せ、その額を軽く撫ぜる。
穏やかな表情で眠っているアムを見ていると、心が和んでいく。

『…いつか、二人でこういう風に過ごしてみたいよな…アムちゃんと』

コーラルから離れるまでに機会があれば、ヴェル・シェバ辺りへ船旅にでも誘ってみよう。
まぁ、なびいてくれればの話だが。

そして、よせば良いのに悪い癖を出したのがまずかった…。

「…コレは、俺からのプレゼント♪」
「ん…うぅ……?
 ……っきゃああああああぁぁぁぁぁっっっっ!?!?
 そ、ソーマさんの……馬鹿ぁ!!!!」
「ぶべらっ?!き、君の為なら死ねるぅぅぅ!!!」

キスを迫ろうとしたドアップのソーマの顔を気が付いた直後に見て、思わず拒否反応が出たのか……。
アムは往復ビンタから突き飛ばしへと至る素手モーション1セット(無論きっちり溜め撃ちw)を反射的に放ってしまい、それをモロに受けたソーマは上空へと鼻血と共にキリモミ回転しながら舞い上がった…しかも最高点でキリモミしたままフォイエを撒き散らし、悲鳴を聞きつけて近寄ってきたヒューキャストどもをなぎ払うというおまけつきで・・・。

「「…阿呆が…」」

呆れた表情で、シーガルとシンデンは同時にポツリと呟き、お互いの顔を見ると深いため息をついたのだった。

「…自業自得ですね」

苦笑するイー・フリーナ。
ともあれ、一発逆転を勝ち取ったハンターズ達。
敵部隊を一掃した彼らは、上空警戒中だった"ネイディア"を誘導し、"ネイディア"もまたそれを待っていたかの様にローターを着陸態勢にして一気に降りてきた。

「ったく、一時はヒヤッとしたわよ」

HUDのバイザを跳ね上げ、皆の前に姿を表したパイロットの姿に、一同唖然。
モデル張りのナイスバディをカーキ色のパイロットスーツに窮屈そうに収めた、ウェーブブロンドのニューマンの女性。彼女の名は――。

「「「リオネスさん?!」」」

そう、居住コロニー"エルグランド"で看護婦研修中だったはずのリオネスだったのだ。

「なーによ、助けなんていらなかった?」
「いや、論点はそこではなく…何故君がティルトロータを…?」

苦笑交じりに言うリオネスに、シスカに肩を借りたウィルが突っ込みを入れる。
そう、いくらハンターズに身を置くとは言え看護婦研修員に過ぎないリオネスがこんな大層な物を、それもこんな短時間に用意できるはずが無いのだ。

「…い、言ったでしょ。クライアントからのチャーター機だって」
「……なるほど、あの馬鹿弟子の仕業、ってわけか」

全てお見通しなケイの物言いに、リオネスはなんでもない風を一生懸命装っているのだが、実のところ頬がヒクヒク動いていたりする。
あまり嘘をつくのが得意な性格ではないらしい。

「…っと、とりあえず!怪我人を先に収容した後、皆乗り込んで!」
「うむ、そう言うかと思って収容できる者はとっくに収容した。
 内訳は…重傷者:ニューマン1、ヒューマン1、アンドロイド2。軽傷者:他多数だ」

場を取り持つつもりがライデンがあっさりと返され、リオネスはかくんっ、と肩を落とす。

「まぁ、あんたってそーいうキャラよね…。
 とりあえず、無事で何よりだわ……さ、行くわよ!」

一様に疲れた表情を見せる彼らに、詳細な話を聞いてみたいと思ったものの。
守秘義務に関することである事を思い出した彼女は、それをぐっとこらえてティルトロータへと歩き出した…。



 
 

最終夜...「ひとりはみんなのために」
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