最終夜...「ひとりはみんなのために」
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「…これで、師匠達も楽に帰れるだろう。報酬金の振込み、終了っと」

リオネスの相棒であり、ケイ曰く馬鹿弟子の―ガレス・オークニーは携帯端末の液晶の表示を一瞥すると、端末のケーブルをネットワーク・カフェの公衆端末から外してナップ・サックにしまい込み、自席に置いてあったミルクティーを飲み干した。

「…マズっ…なんだよこりゃ」

自分が入れる物より遥かに味が劣っている事を再確認しながらも、ティ・カップをソーサーに戻し、席を立つ。

『アリガトウゴザイマシタ』

ネットワーク・カフェの自動ドアの機械音声を背に、ガレスは店を出た。
そのまま、外に止めていたエア・バイクにまたがると道路に出てそのまま走り出す。
途中で携帯端末に着信のコールが入った。

(思ったより早いな…)
 
信号待ちのわずかな時間を利用して、ナップサックから慣れた手付きでヘルメットにケーブルを接続。
信号が変わると同時にエア・バイクのアクセルを蹴る。バイクを片手でコントロールしながら、ガレスは通信機能をオンに切り替えた。

『…ナイトより、ウィザードへ。繰り返す、ナイトよりウィザードへ…』
「こちら、ウィザード。…兄さん、何遊んでるんです?」

今回の真の依頼人―オークニー財閥総帥、ガウェイン・オークニー―からの能天気な呼掛けにバイクごとコケそうになるが、危ういところで持ち直す。

『いいじゃないか、これ位』
「…で?」
『…仕事の完遂を確認した。相変わらず、手際が良いな』
「…足掛け1年の大仕事でしたからね。
 これ位、大事にしておけば、ブラック・ペーパーも事後処理だけで手一杯で、こっちに手を打つにも数年は掛かるでしょう」
『…だが、いいのか?』
「ええ、未練が無いわけじゃありませんが、私がコーラル圏内から居なくなれば足跡はそこで途切れますから…」
『後は、私とお前ら夫婦が、墓の中まで秘密を持っていけば…』
「事件の真相は藪の中、って事です」
『そうか…』

ガウェインはそのまま押し黙る。

「…じゃ、この携帯端末はスクラップにしますので。今度、連絡する時は自宅の方にして下さい」
『…判った』

通信の切断を確認すると、ガレスはバイクを郊外のスクラップ工場に向け、そのまま走り出した。

「…以上、ギルド管理番号Y1589523201の報告を完了します」

ターミナルコロニー"プリメーラ"ギルド本部最上階、評議会応接間。
上座には大きな椅子にどっしりと腰を降ろした評議会議員の姿。
一方下座には、怪我で入院を余儀なくされたウィルの代わりのケイと、シーガル、アヤがやや緊張した面持ちで立っていた。
普通ギルドへの依頼完遂報告はギルド受付への報告、端末によるメール転送、もしくはモニター越しの報告に留まることが多く、直接評議会の議員が報告を聞くという事自体珍しい事と言える。
裏を返せば、今回の依頼がいかに重要度・危険度の高いものだったかが良く分かる。

「…ご苦労だった、ハンターズの諸君。
 先ほど受け取った参加者一覧の口座へ、依頼者より完遂報奨金が振り込まれたのを確認した。
 この度の件に関しては、非常に微妙な要素が関わってくる事は想像に難くないと思う。
 口外は無用に頼む…移民への第2段階が進みつつある昨今、移民する者達に不安の材料を作りたくないのだ。…隠し事をしているようで、落ち着かんがね」
「了解しております、タイレル総督!」

かかとを打ちつけ、WORKS流の敬礼をして微笑を浮かべるケイ。慌ててそれに習うシーガルとアヤ。
その微笑に苦笑を浮かべつつ、その評議会議員――コリン・タイレルパイオニア2総督――は敬礼を返した。



 
 

最終夜...「ひとりはみんなのために」
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