最終夜...「ひとりはみんなのために」
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「うはぁ、軍用のフレームがここまでへし折れるなんて…派手にやられましたね〜」
「あは、やっぱり結構酷いです…?」
「在庫部品はたくさんありますから。大丈夫、チューン屋の腕によりを掛けて直しますよ」

居住コロニー"エルグランド"の工業区に位置する小さな工場。
寝台に寝かされたイー・フリーナの身体を丹念に調べつつ、油の染みがついた白い繋ぎを着た、活発そうな褐色の肌の娘が感心したように言う。

「フレーム限界、考えてたらこんな事にはならないし…一体何をやらかしたんです?」
「ひ・み・つです♪」
「ふにゃぁ、酷いよイフィさん〜」
「ふふふ…でもシンクさん、コレを聞いたら公安が追っかけてくるかも知れませんよ?」
「あぁう、それは勘弁してもらいたいなァ…」

シンクと呼ばれた、褐色の肌にショートカットの銀髪を持つニューマンの少女は、イー・フリーナの真面目な一言に苦笑した。

「まぁ、いいかぁ…さぁて、発注パーツも届いた事だし!すぐ直しますネ♪」

人懐っこい微笑みを浮かべ、大きく腕まくりをすると猛然と部品の山と格闘し始めるシンク。

「しっかし…こんなに送ってくれたって使うのは一体分だけなのになァ…?
 剛雷重工に問い合わせてみても"受け取ってくれ"って一点張りだし…イフィさん、何かご存知です〜?」
「い、いいえ…」

心なしかイー・フリーナの頬が赤くなったような気がするが、シンクは気がつかない振りをしてあげる事にした。
太古から伝わる諺にもある。
曰く。
人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られて三途の川――。



「………むぅ」
「どうした、シンデン?」

剛雷重工、アンドロイド用修理ハンガー控え室にて。
ため息の多いシンデンに、妙に思ったライデンは声をかける。

「兄者、イフィ殿は治るのだろうか…?」
「別にメモリ部分を損傷したわけではない。すぐに元気な姿を見られるさ」

そんな事だったかと、苦笑するライデン。

「…うむ、あれだけ予備パーツを送ったのだ、大丈夫だろう」
「…念の為に聞いておくが、どれほど送ったのだ?」
「義体のパーツをおよそ10体分だ。不良品があってもそれだけ送れば問題あるまい?」
「お前という奴は……限度というものを知れ!!」

あっけらかんとしたシンデンの物言いに、頭が痛くなる思いでライデンは頭を抱えたのだった。



「…ここは?」
「俺の家だよ、ティアナ…よ、っと」

ソーマは自分の仕事場兼家である海洋調査船「ルルコシヌピア」の自室へと、いち早く回復したティアナを連れ帰っていた。
いつのまにやら、正式に彼女の戸籍がソーマの姓であるカムイに移った事を確認しているからこそ、だった。

『あんにゃろ、粋な計らいしてくれるじゃねぇか…』

同門の兄弟弟子であるフォーマーの、飄々とした顔を思い浮かべて苦笑したまま部屋のドアを開ける。
肩車をして担いでいた彼女をベッドにそっと降ろして、ソーマはその顔を覗き込んだ。

「これからは、俺達と一緒に暮らすんだ…嫌かい?」

彼女は黙って首を横に振り――。

「…ここは…落ち着くの。…懐かしい匂いがするから」

ティアナはそっとベッドに横になり、その蒼い瞳を閉じる。
やがて小さな寝息をたて始めた彼女の小さな身体を、ソーマは微笑んで布団をかけてやり。

「寝る子は育つ、ってな。
 さぁて、仕事が俺を待ってるぜ〜♪、っと」

上機嫌で部屋を出て行った。
シーガルやアムにティアナを引き取った事が発覚して激しく誤解されるのは、また別の話である――。



 
 

最終夜...「ひとりはみんなのために」
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