「…そうだったね…そうやって、ボクはみんなと出会ったんだっけ…」
遠い目をして、エミーナ。
あれから約4年が経つ。
彼女はウィル達の後を追うようにハンターズの門戸を叩き、幾たびの難関を皆と乗り越え…今ここにいる。
「エミーナって最初はおとなしい娘だな〜って思ってたのに。
ふたを開けてみれば明るくて元気で…暫くすると同い年くらいになっちゃうし。びっくりしちゃった」
「ん…例の影響で、成長が止まってたって…。ソーマ君からアムだって聞いてたでしょ?」
事件当時、エミーナは10歳児位だったのはずなのだが。
ハーヅウェル宅に引き取られてから急速に成長を始め、3ヶ月ほどでアムと同じくらいになり、その後成長が緩やかになった。どうやら、本来の年齢はアムとほぼ同じだったと推測される。
ちなみに、これはティアナにも言えていることだ。
「あの頃は可愛かったんだけどなァ…」
「…あぅ…あ、アムの馬鹿…恥ずかしいじゃんかぁ…」
「ふふ、かーわいっ♪」
顔を真っ赤にするエミーナに、アムは微笑を浮かべる。
本当に可愛くて仕方がない、そんな表情だ。
「…えと…ボクも…アムのコト…その…今でも大好き…だから…」
ぎゅ。
顔を紅くしたまま、力いっぱいアムを抱きしめるエミーナ。
「ぁっ?!」
思いもかけない不意打ちに、顔を急速に真っ赤にしたアムの身体がふにゃふにゃになる。
「あ…その。違うよ…そういう意味じゃなくて。
イフ姉さんやウィル兄も含めて、ボク達は家族だもの…独り占めはしないし、できない…。
…でもボクは…欲張りだから…」
アムの様子に気がつかぬまま。
掠れた声でそう言うと、エミーナはそっと彼女の頬にキス。
それは、例え血が繋がっていなくとも固く結ばれた「家族」の間に存在する、親愛の情を集約したものだったけれど。
今のアムには、どうやら刺激が強すぎたようで―――。
「ふ…ぁ…」
ゆでダコ状態になって、そのまま目を回してひっくり返ったアムを見て今更驚くエミーナ。
「ふにゃ?…あ、あれ?!アム?おーい、アム〜っ?!」
ゆさゆさと肩を揺らして起こそうと努力しようとするも、どうやら無駄に終わりそうである。
完全に目を回してしまっている。
「ど、どうしよ…」
助けを呼ぼうにも、隣はお祭り騒ぎだし…。
「あははは、もっとお酒持ってきてよぅ〜」
「おしゃ〜っ!飲め!歌え!」
「にゃははははっ♪」
「一番シンデン、かくし芸やりますッッ!!」
「おぉぉ、やれやれぇ!」
「だぁぁっ、近所迷惑だっつーの!!!」
「だいじょうぶですよ師匠、他の家だってみーんなそうですから」
「ごめんね、ウィル…わたしちょっとエニードを寝かしつけてくるわ」
「あぁ、ケイさん!!職場放棄〜〜(涙」
そんな、騒がしい声が漏れ聞こえる。
いよいよ、明日。
パイオニア2は惑星ラグオルの衛星軌道上へと到着する。
それを祝っての仲間内でのパーティが、何故かハーヅウェル宅で行われているのである。
どうやら他のところから体よく追い出され、ついにはここしか無くなった様だ…。
「あ…エミーナ…」
「良かった…気が付いたんだ」
「…うん…さすがにあれだけ隣で騒いでると、ね…。
それはそうと…エミーナって天然だから、気をつけたほうが良いよ?」
「…ふにゃっ?」
「……なんでもないw」
頬を染めて、苦笑を浮かべるアム。
エミーナは訳がわからず、首をかしげるだけだ。
「…私たちも行こっか?」
「え…?」
ぴょこん、とベッドから降り立ったアムは、Tシャツにスパッツというエミーナとお揃いの格好でドアへと歩き出す。
「ウィル兄には悪いけど…一緒になって騒げば、ストレス解消にもなるでしょ?
アヤちゃんとシスカちゃん達もいるし…。
ずーっとパイオニア2に居たんだもの、最後くらいパーっと騒がなくっちゃ!さ、行こうよ」
立ちすくむエミーナの手を、アムがしっかりと掴む。
暖かく、柔らかな手。
「…うん」
頷き、エミーナはアムと共に歩き出す。
こうやって無数の誘う手が、自分が新しい世界で縦横無尽に駆け巡るきっかけとなって行くのだろう。
今までも。そして、これからも。
その一つ一つを、大事にしていきたい。
『明日のボクは、どんな所でどんな事をしているのかな…』
それを夢見て、エミーナはそっと微笑んだのだった。
(了)
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