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「おや、先客が居ると思ったら…ガレスだったのか」

その声にあわせたかのように店先に顔を覗かせたのは、ガレスとシンクの大学の教授であり、ガレスのハンターズの師匠でもあるウィルだった。

「あ…師匠?何故こんなところに?」
「こんなところに、って…色々彼女にはウチのを面倒見てもらってるからな」

ガレスの言葉に苦笑しながら、笑ってウィルは言う。

「ウィル先生、今日はどしたの?」
「うん、大体ガレスと同じお願いだと思うがね?」
「ほぇ、もしかしてお手伝いさんを雇うか作るか、って?」
「あぁ。一人、都合が付かないかな?」

ふむ、と考え込むシンク。
その隙を狙って、ガレスは彼女を振り払った。

「と、とりあえず。今回はキャンセルさせてもらうぞ」
「あぅぅ、そんなぁ…」
「おや、これは…?よく出来てるなぁ…カスタムかい?さすが、いい腕してるなぁ」

ガレスと入れ替わるように「彼女」に近づくウィル。

「はいな、ウチでチューニングした娘ですよ。
 ほんとはガレス君のところに納入予定だったんだけど…何故かOSが安定してなくて…お蔵入り、確定かなぁ」

シンクの心底残念そうな表情に、ウィルは一寸考える仕草をして…。

「ふむ…OSが安定しない、か…どれ、見せてくれるかい?」

結局は弄る事に決めたらしい。
やはり工学系の血が騒ぐのだろうか。

「あ、はい。
 …えっと、この端末の操作方法、わかります?」
「あぁ…癖があるけど…堅牢なシステム使ってるね…さすがチューナーの環境だな。
 冒険は冒さず安定志向かつ高速でぶん回す、と…。
 ん。シンク、これとこのデータは隠しといた方がいいぞ、公安に見つかるとヤバイだろ」
「あ、はい。すいません」
「んなあっさり流さないで下さいよ、師匠…少しは驚くとか…」
「こーいう工場では基本だろ、基本w」

シンクほどではないにしろ、滑らかな手つきでキーをタイプしながら、ニヤリと笑うウィル。
他人の環境でここまで扱えるというのは、彼もそれなりの腕を持つハッカーらしい。

「…お、こりゃなんだ??…無線LAN?!おいおい、よりにもよって随分と古いパーツだなぁ?」
「…あらら、ホントだ…イーサ…ネット?って…
 いつの時代よ、規格古すぎじゃない!道理で見つからない訳だぁ」

あっちゃぁ、と頭を抱えるシンク。

「ふむ、BIOSで弄れないようにして、リンクオンすると勝手に無線LANから流れてきたOS権限が上になるように仕組まれてるな…。
 よっぽど危ないところで使われてたか…それともただの遠隔操作用途か…?」
「というか、まだそんな古い規格が生き残っていた事に俺は驚いたね…。
 なんにしても、ちょっと怖くて使えないな、これは」
「…ふむ、なんだったらマザーを乗っけ変えて、改修してウチで引き取るよ。
 組みあがった子を再度バラすのも、何だかかわいそうだからな」
「ふに〜ん、先生〜!神様はいらっしゃるのですね〜〜」

涙を浮かべつつウィルに抱きつくシンク。

「おいおい、そんな大げさな」
「それじゃ、俺はこれで…」

腰をあげたガレスの襟首を、シンクに抱きつかれたままのウィルの手がむんずと掴む。

「え、師匠?」
「ガレス、そういやこの間のレポート、まだ提出されてないぞ?」
「え、こないだ出したはずですけど…?」
「ん?まだ提出されたデータ受け取ってないぞ。
ちなみに提出は今日までだ、何としてでも提出してもらうからな。ほれ、行くぞ」
「うげ、勘弁してくださいよ…」
「ま、そーいうことだから。シンク、頼むな」

シンクに拝むようなしぐさをして、ガレスを引っ張っていくウィル。

「あいさっ♪」

 



 
 

 
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