海岸に作られたロッジの中ではたくさんの少女たちがしゃべっている。
なぜかアークスには少女が多い。必然的に(仮)にも女性が多いのだ。
ロッジの中には5人いる。シャニさん、みづきさん、ろんちゃん、もみじさん、みしゃさん。
「もう少し硬くなりたいんだけど、クラス的にハンターは確定としてあとはテクターかなぁ?」
栗毛の大和撫子、シャーニー。シャニさんは防御特化のハンターだ。
その耐久力は僕の2倍以上。戦闘機に搭載されている対物ミサイルを全弾受けても耐えきるほどである。
「武装エクステンドでユニット強化して、もう少し使い物になればいいんだけどねえ」
みづきさんは(仮)のクラフター。
クラフトには、武器・防具を強化する武装エクステンドとテクニックの性質変化を行うテクニックカスタマイズがある。
どちらも極めるには相当なメセタ、つまり金が必要な代物だ。それらをある程度のレベルで習熟できているという時点ですごい。
僕もテクニックカスタマイズを通して彼女の世話になっていた。
「テクターならデバンドカットでダメ減らせるよ!」
長い茶髪をツインテールで結んでいるのはもみじさん。万能型のフォース/テクター。
フォースの基本、周囲の状況を見極めて行動を選択するをモットーに実践している。
実は惑星リリーパの原住生物リリーパ族だと噂されているが真実は定かではない。
「最近見た技術局の発表だと、テクターのメインスキルで最大HP増やすのが実装されるみたいだよー」
まいろんはタリスの扱いに定評のあるテクターだ。
ろんちゃんは黒髪メガネのおとなしそうな娘だが、常に頭の上になにかしら載せている。いまはギルナッチランプを載せていた。
あの、赤く光ってくるくる回る奴だ。ひょっとしたら、自分の位置をわかりやすいようにするという意図があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
「地味にスキルツリーの変更で、無駄なスキルに割いていたスキルポイントが戻ってくるのもうれしいよね」
みしゃさんは珍しい型式のキャストである。
なんと各パーツを換装することでクラスを変更したり、局地的な環境に対応できる。
現在は水陸両用タイプの換装をしているのだろう。
「「「「だねえ」」」」
皆で大きくうなずく。僕も会話には加わらないが、同意する。
アークスは現在7つのクラスに大別され、僕ら第三世代アークスはメインクラスとサブクラスの二つを自由に選択することが出来る。
さらに独自の技能、つまりスキルを取得することで各員の戦闘スタイルに最適化することができた。
スキルとはアークス技術局が今までの戦闘データを解析、最適化することで設計しているのだが、利用するには体内のフォトン構成を調整をする必要がある。
ただ、体内のフォトン総量には限りがあるため、あらゆるスキルを獲得することはできない。
自らのレベルに合わせ、どうしてもスキルを取捨選択する必要があった。
ここで問題となるのが、スキルツリーというスキル取得方法だ。
Dというスキルを得るためにはスキルCを3レベル取得していなければできず、スキルCを得るためにはスキルBを……という仕組みである。
今まで欲しくもないスキルのために体内のフォトンを割いていた僕らアークスたちだったが、技術局はどうやら新しいフォトン圧縮技術によってシステムの改善に成功したらしい。
情報が本当であれば、今まで以上にアークスの戦闘力は向上するだろう。
「ソルティドッグです」
ほらたさんの声で我に返る。見れば、綺麗に塩でグラスが縁どられたカクテルがそこにあった。
キャストの技量は高いというが、こういうことでも如実に分かるらしい。
「ありがとう。……向こうでシャニさんたちが話してるけどスキルツリーの圧縮楽しみだね」
「そうですね。ですが、同時にMPSEの変化が環境庁から予報されています」
「……暗くなる話題だな」
MPSE。メジャー・フォトン・センシティブ・エフェクト。
通常、アークスとしてなじみ深いPSEは、作戦行動地域内のフォトン構成に小さな影響をもたらし、炎や雷などの属性威力、経験値獲得効率などを変える。
そして、MPSEは宇宙全体に長期にわたる影響を与える。フォトンを利用するアークスはその影響から逃れることが出来ない。
スキルの効果が変更されたり、PAやテクニックの威力が変わったりするのだ。
常に威力が低下されるわけではなく、むしろ向上することのほうが多いのだが、戦術の変更を余儀なくされるためにアークスの頭を悩ませる天災といえた。
そして、僕にとっては致命的な影響があった。
「すみません。そういえばリバさんはガンテクをしていましたね」
「いいんだ、もう知ってる。予報でSロールJAの威力が大幅に下がるとか聞いたよ。ガンテクは面白かったんだけど、Sロールが機能しなくなると皆のお荷物になってしまう。……潔くやめるさ」
ソルティドッグを呑む。気分は低空飛行だが、ヤケ酒をするつもりはなかった。
むしろ僕にとってアルコールは鎮静作用のある薬だった。
決して強くはなく、それどころかアークスとしての自浄能力を故意に切れば、むしろ弱い方だ。
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