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ファイル1:再起動/リブート





「もっとだ! もっと大きく!」

ちびちびやっていると海岸からは騒々しい声が聞こえてくる。
男性陣はロッジに居辛かったのか、浜辺で遊んでいた。

メルさんとせーれさんが砂浜に埋められていた。埋めているのがこーきさんと赤虎だ。

「よぉし、いいぞ! これで俺もボインちゃんだ!!」

叫んでいるのはメルさんだった。
本名メルヴィン。チョコレート色の髪とヒゲが印象的な男。三十路らしいがその肉体はまるで衰えを感じさせない。
戦闘時はナックル、すなわちボクシングスタイルを採用した武装を愛用するだけあって鍛え抜いているらしい。
だが、いまや彼の肉体は砂に覆われている。大きく!といっているのは彼の胸の上にうず高く積まれた砂だ。
いまやマリさんのそれを凌駕するほどになっているが、誰得なのだろう。

「お、おう……」

死んだ目でメルさんの胸の砂を積んでいる不憫な男はこーきさん。
光鬼と書いてこーき、ストイックに努力するカタナ使い。黒髪黒目で和装を好む。
一方では、よく旅行計画などを立ててくれたり時にはみんなのまとめ役をしてくれる苦労人だ。

「ふぇぇ……。恥ずかしいんですけど……」

「へへっ、ちょっとは漢らしくなったろ?」

「たしかに男らしくなりたいって言いましたけどこれ違いますよ……」

せーれさんは黒髪褐色の少年だ。
まだあどけない顔立ちで女の子のようにも見えてしまう。なにせ枯葉さんが女装させたがるほどだ。

そんな彼に砂をかけているのは赤虎。通称先輩。
別に古参メンバーではない。
ただ、先輩っぽい男なのだ。アークス候補生3年の頼れる先輩のような雰囲気を纏っている。
アークス候補生なんてもう卒業してる僕らだが、赤虎に先輩のような雰囲気を見出すのだ。
余談だが、僕はそんな先輩の実の先輩なので、話すときには先輩とは呼ばず、赤虎と呼んでいる。

赤虎はせーれさんの周りの砂を固めて大人の筋肉を形作っていた。
意外な特技だ。自身が筋肉質だからか説得力のある筋造形ができるのだろう。

「これが胸筋だ。フォトンを砂にシンクロさせて、自分がそうなるというイメージをしてみろよ」

なるほど、イメトレってやつか。赤虎は砂で作ったせーれさんの胸に指を這わせている。
せーれさんはせーれさんで、赤虎の気持ちを無駄にしたくはないと思ったのか、「んっ」と目をキツくつむってイメージをしていた。

妙にインモラルな空間に一人のキャストが現れる。

「せーれたんは漢らしくなりたいのでありますか?」

「おっ、いいんちょう」

「ええ、そうです。それで先輩に……」

「それなら、こうであります」

現れたのはクベルタ。
いいんちょうと皆に呼ばれている神出鬼没のチームメンバー。ほらたさんより濃い青髪に赤メガネをかけたキャスト女性だ。
度重なる戦闘と修復で彼女には不可逆性のひずみが出ている。
ひとたび戦闘となれば電脳脳殻内に大量の電子ドラッグが注入され正気に戻るが、そうでない時は有体にいっておかしかった。

つまり今はおかしい時のいいんちょうだった。
言うが早いか、どこからかもってきた海藻とバナナをせーれさんの股間にブスリ。

「!? それまずいですよ! 絶対まずいですって!!」

「お。なるほど、たしかにそれも男のシンボルだな!」

止めないのか赤虎。

「でも、食べ物を粗末にしちゃいけないぜ。バナナはちゃんとむいて食わねえと」

それどころか、赤虎はさらなる地雷へ踏み込んでいく。
ためらわないスタイル。それもまた先輩の先輩たる所以だった。

「……! そうですね。このクベルタというものが迂闊でした。では先輩そのままムいて、食べて、どうぞ」

「ダメ! それはダメ!!」

イメージ中だったからか、余計なことを連想してしまうのだろう。大慌てなせーれさんだ。

これ以上は見ない方がいい気がした。
せーれさんのためか、赤虎のためか、僕のためか、定かではなかった。

 

 


 
 

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