首を回して、チムルを見わたす。
他にも、思い思いの過ごし方をしているメンバーがいた。
パラソルの下ではベルさんがシートに寝そべっていた。
ベルさんことベルファミアは、チャコさんといい勝負をする勝気な女性である。
ベルさんはチラチラ男性陣の方を見て、ため息をついている。あれは切ない溜息とかではなく、なんでこんな男たちしかいないのかという溜息に違いない。
目線を落とし、ホロウィンドウに映し出された新進気鋭のアイドル『クーナ』のライブ映像視聴に戻ったようだ。
チム木……チームツリーという特定フォトン発生用のバイオ装置の近くで日光浴をしているのは、緑色のキャスト:上から来るぞ。通称上様。
一見してキャストだとは分からない、生体型の肉体を装着している。
明らかに通常と違うのはその肌に葉緑体をプリントアウトし、光合成によるエネルギー補給を可能としている点だった。
アフロ髪にした彼がチム木の横にいると巨大なブロッコリーが二個置いてあるように見える。
砂浜の上で寄り添っている2人の女子はりあこさんと誤解ちゃん。
銀髪の少女がりあこさんで、死んだ目をした水色髪の女性が誤解ちゃんこと誤解ですよだ。
ああしていると、あの2人が(仮)の中で最強の存在だとはまるでわからない。猫が2匹いるようだった。
ちなみに、上から来るぞや誤解ですよという人名からかけ離れたアークスネームは別に珍しいことではない。
多くは、過去やプライベートときっちり区別をつけるためにそうした名前を名乗る。
当然呼びにくいから、あだ名で呼ばれるわけだが。
海の方では花火が舞っていた。つくねとチャコさんだろう。
花火の明滅に混じり、白色のフラッシュ。(仮)のカメラマン、湊さんが撮影しているようだ。
湊さんは黒髪をサイドポニーで纏めたスレンダー美人。双子の円さんもチームメンバーだが今日は来ていない。
湊さんのクラスはレンジャー。よいシューター(射手)はよいシューター(カメラマン)になれる、というのは本当のようだ。
彼女の戦闘中の一コマを切り取る能力はすごいの一言につきる。
とにかく、湊さんが撮影しているということはそれだけ綺麗な戦いだということだ。
よくチーム内で企画を立ててくれるのだが、今回も湊さんの発案だろうか、つくねとチャコさんの頭頂部には風船が仕掛けられている。
あれが割れた方が負けなのだろう。
やはりロケット花火の打ち合いはガンナーの動きをしていた。
2人ともGu70……ガンナーの熟練度がアークス規定値70レベルに到達しているので、自然とものすごい高度な戦闘になる。
同じクラスだが、戦法は違った。
Sロール:側宙を多用し飛来する無数の花火を回避、急速に近づいてくるチャコさんを引き離すべく中距離から花火を放つつくね。
一方のチャコさんは懐に飛び込み畳みかけるべく、虎視眈々とつくねの隙を狙っている。
それは新旧のガンナーの戦法変遷を明確に表していた。
ガンナーは射撃武器ツインマシンガンを用いた接近戦職だ。いや、だった、というべきか。
ガンカタと呼ばれる古代の戦技をもとに発展したスタイリッシュなクラスなのだが、非常に癖がある。
せっかくの射撃武器を使っておきながら、接近しなければ使い物にならない技が多いのだ。
それに納得いかなかった若きガンナーたちは中距離での戦法拡大に邁進した。
空中に停止した状態で複数体に銃撃を放つエルダーリベリオンや、銃撃を行いながら走行可能なインフィニティファイアといったフォトンアーツはそうした要求から生まれている。
フォトンアーツとは、ディスクと呼ばれる記録媒体にアクセスすることで直接脳にインプットされるフォーマット化された戦技群である。
決められた範囲の挙動しかできないが、フォトンによる肉体の加速、火力の大幅な増大などを見込める。
ちなみに、テクニックも同じ原理だ。こちらは自らの肉体ではなく周囲の環境に影響をもたらすという違いがある。
はたして、新旧ガンナー戦はベテランのチャコさんの方が有利のようだった。
つくねとチャコさんは互いに円を描くように回っていたが、花火が一瞬やむ隙をついたり、途中で回避方向を変えたり、チャコさんはつくねのペースを巧みに崩していく。
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