| |
ファイル1:再起動/リブート




彼女たちの戦いを見ながら、かつての自分を思い出す。

ガンテク。
それは、ガンナーとテクターを組み合わせた職、あるいはガンナーとテクニック職を組み合わせた職。
多くは前者を指すが、僕は後者すなわちガンナー・フォースだった。
至近距離から超遠距離までのいずれにおいても戦闘可能な組み合わせ。
特殊動作:Sロールによる高い回避能力とスキル:SロールJAによる高威力テクニックを使用できる。
つくねやチャコさんのような戦い方はできないが、そのどちらとも異なる独自の戦いができた。

SロールJA弱体。MPSEがもたらす影響で、僕にとってのガンテクは死ぬ。

彼女たちはどうするだろう?
たぶん、チャコさんはガンナーを継続する。彼女はSロールがない時代からの生粋のガンナーだ。ひょっとしたら前より強くなるかもしれない。
つくねは、気にも留めない。ガンナーでなくても彼女には戦う手段がいくらでもある。

「ごろーちゃんはどっちが勝つと思う?」

気づくと僕の横の椅子に金髪の女性、アグさんが座っていた。

アグリアス。誤解ちゃんとりあさんと同じく、チーム内戦闘力最高位の女性。
ハムリアスと揶揄されるほどにハムる……つまり滑車を回すハムスターのように任務を行い続けることが趣味のアークスだ。

「たぶん、チャコさんじゃないかな」

「じゃああたしはつくねに10k」

10kというのは10000メセタを意味している。
0の数こそ多いが僕らにとっては端した金だ。せめて100k程度は無いと服が買えない。

チャコさんが勝つと思った理由は簡単だ。
これは任務ではないから。
戦っている相手はダーカーでも龍族でもなく同じアークス。
ガンナー黎明期から試行錯誤し戦闘経験を積んできたチャコさんの方が有利に思えた。

海岸では、そろそろ両者の均衡が崩れつつある。
やはりチャコさんの方に勝利の天秤は傾いていた。

「それはもう見切った!」

つくねのエルダーリベリオンから飛来する無数の花火を縫うようにして足を運ぶチャコさん。

「ひ、ふ、み、よ、いつ、むー……なの。やの。ここのつ!」

最後の一弾を首をひねることで避け、大きく右足を踏み込んだ。
ずん。
海岸の砂が一文字に巻き上がる。
デッドアプローチ。それはたったの一歩で10mあまりの距離を0にする縮地の技。
エルダーリベリオンの反動によりつくねはコンマ数秒停止する。そこをチャコさんがついた。
空間が歪んで見えるほどに練りこまれた分厚いフォトンがチャコさんの右半身を覆い、神速の体当たりがつくねに迫る。

僕はチャコさんの勝利を確信する。

もしもつくねが半歩でも移動することができたなら、負けるのはチャコさんの方だろう。
フォトンアーツは決められた範囲の挙動しかできない。途中でキャンセル可能なPAも存在するが、デッドアプローチはそうではなかった。
ただまっすぐに一定以上の距離を進めば、確実に停止し、致命的な隙をさらしてしまう。
射程ぎりぎりからのデッドアプローチは、ターゲットがわずか半歩後ろに下がるか横にずれるだけで確実な負けを呼び込む諸刃の剣だ。
しかし、千載一遇の機会を逃さず使用に踏み切れるあたり、チャコさんの胆力は流石と言える。

だが、勝利の女神はつくねに寄り添っていた。
そういえば、あいつはそういう"もってるヤツ"だった。
迫るデッドアプローチからつくねを救ったのは、惑星ウォパルの強い引き潮だ。
つくねの硬直していた体が波にさらわれ、ほんのわずかに移動する。
それはデッドアプローチの有効範囲からつくねを救うのに充分すぎる距離。

渾身の体当たりは空を叩いた轟音ともに止まり、水飛沫が舞い上がる。

赤と金の視線が交錯した。

まだ風船は割れていない。
互いの神経が加速し、時が止まったかのように世界が色を失う。
水飛沫すら落下を緩め、その一粒一粒に対峙する二人が映りこんだ。

両者とも互いへ向かってダイブ。
メシアタイム。一定空間の時間の流れを遅くする驚異のPA。
ロケット花火が放たれ、光の軌跡を描きながら互いの体をすりぬけていく。
メシアタイムには長時間あらゆる攻撃を透過可能になるという特殊効果があった。勝負は次で決まる――。

「はい! ストーップ!」

ジャッジでもあったのか湊さんが中止宣言をした。2人の頭部を指さす。
風船が割れていた。どうやら、メシアタイムであっても風船まではカバーしきれなかったようだ。

「あちゃー。これダメなのか」

「どっちが勝ったんじゃろ?」

「大丈夫。ちゃんと撮ってる」

流石の湊さん。だれも気づかない決定的瞬間をばっちり撮っていた。
手の中のカメラのホログラムウィンドウモードを起動・展開、空中に撮影画像を投影する。

カシャッ、カシャッ。コンマ秒ごとに撮影されている二人の画像。
いつの間にかギャラリーがわいていたのか、それを食い入るように見つめていたのは2人だけではない。
チーム全体が結果を気にしていたのだ。

だけど、これは……。

「……引き分け?」

「のようじゃの……」

コンマ秒の差もなく、撮影画像の中で二人の風船は同時に割れていた。

「まぁまぁ、接戦だったじゃないの。いい絵がとれたわー」

ホクホク顔の湊さん。つくねとチャコさんは互いに見合って讃えあっていた。

「あの時、わしが波に足をとられなければチャコの勝ちだったのう。流石じゃ」

「ちぇー。あそこで決めれればカッコよかったんだけどなぁ。それよりつくねも結構やるじゃん」


「賭けは無効かな?」

アグリアスさんに確認をとる。

「うーん、つくねのラックに賭けてみたけど、ちょっと足りなかったかぁ」

僕は10kには興味はないが、賭け事である以上その勝敗は気にする性分だ。
チャコさんがデッドアプローチを外した時はもうダメかと思ったが、引き分けになるとは救われた気分である。

「それにしても綺麗な戦いでしたね」

ほらたさんも二人の戦闘をチェックしていたようだ。
キャストとは言え人間型のフェイスを採用しているために、彼女がほんの少し興奮していることが見て取れる。

「そうだね、それに」

「「楽しそうだった」」

アグさんとハモった。そうだ。ガンナーは楽しいのだ。
なんだかんだと理由を付けていたが、自分がガンテクをやっていた理由をこんなことで思い出す。

気づけば空はもう白んじており、朝日が昇ろうとしていた。

 

 


 
 

| |