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ファイル1:再起動/リブート





「いつもと微妙に勝手は違うけど、パーティを組んだ方がいいよな?」

「やりやすい方法でやればいいと思うよ」

「それより、あたいこさんのいる海底までどうやっていけばいいんかしらね」

こーきさん、湊さん、チャコさんの(仮)でまとめ役になりやすい3人がコテージで話し合っている。
こーきさんは煎茶を、湊さんはコーヒーを、チャコさんはビールに飽きたのかヒョウタンに入った謎の酒を飲みながら話していた。


「でも多すぎない? 26人?」

「多いねぇ。そんな人数で作戦行動したことないよ」

チーム最強の一角、りあこさんがカタナを腰に差しながらつぶやき、エミナさんが少し不安そうに同意する。

通常、アークスはパーティと呼ばれる最大4人の小隊を組み作戦行動を行う。
また、大規模な作戦になれば、最大12人の中隊:マルチパーティを組むこともある。

だが26人の連携作戦なんて今までにやったこともなかった。

ダークファルス級の敵と戦う際はアークスの総力を賭けた作戦になるが、その場合は本部の全面的なバックアップが行われる。
実際、マルチパーティ以上の戦闘単位をダークファルス戦で意識することはない。

「正直、海底とはいえ大隊行動するほどじゃないと思うけどなぁ。12人選べばいいんじゃない?」

「いや、むしろチームルームが安全と判断したはずのエリア内に未踏の海底探査区域があるってのが問題だよ。なにがあるかわかったものじゃないし。人数は多いに越したことは無いと思う」

りあこさんのある意味当然の意見に反対したのはぴさんだった。
見た目こそアナーキーだが、意外とこういった時には慎重派の意見を出すのが彼女である。

なお、ぴさんはそんなことを言いながら、もみじさんたちとダンスをしている。
腰を落としてシェイク、1、2、ステップしてターン。また腰をクイッ、クイッ。
別にふざけているわけではない。これも一種のトレーニングだ。
他者と複雑な動きを同調させることにより、連携行動の強化を図っているのである。
彼女たちは話し合いをしながらもつま先から頭まで各関節の角度、タイミングが完全に一致していた。

(仮)では暇さえあればこれをやっている。別に訓練のつもりではなく、娯楽として。
しかし効果はてきめんなのか、癖者ぞろいの(仮)でありながら戦闘時の連携は自然と取れるのだ。

りあこさんやエミナさんも話をしながらいつの間にかダンスに加わっている。きっとパーティを組むときはダンスメンバーから埋まっていくだろう。


「しゃおちゃん、元気だしなよー」

「でもぉ、マイがぁ〜」

「煮さん、あたいこさんなら無事だって。そんなに心配ならWisで話してればいいじゃん」

「マイのことだからピンチでも顔に出さないよ!」

体育座りでうずくまっている煮さんを励ましているのはろんちゃんとシャニさん。
喧々諤々の煮さんだったが、マイペースに励ますという技をやってのけるろんちゃんとシャニさんの言葉に吹っ切れたようだ。
バネ仕掛けのようにシャッキリと立ちあがり、ダンス陣営に飛び込んでいく。

「ウォオオォオアアアアー! 待ってろマイー!!」

「やれやれだぜ……」

「よかったねぇ」

シャニさんとろんちゃんも顔を見合わせ、追いかけていった。
次々とダンス陣営が拡大していく。
妙にハイテンションな緑のブロッコリーと赤いメガネのキャストたちが音頭をとっているようだが、気にはすまい。

一方、チムルの中央フロアではみしゃさんとベルさんが頭を悩ませていた。

「一旦、クラスを換装してきても大丈夫ですかね……?」

「みしゃの換装って、クラスカウンターに行かないとできないんだっけ? 今テレポーターや倉庫、ビジフォンを使うのはまずいと思う。あーいうの使うと色々と脳から吸出し受けるって噂聞いたし」

「そういえば、そんな都市伝説あったっけ……」

「どうせ後でバレるだろうけど、今バレたら下手するとあたいこさんの救出が本部から差し止め受けるかもしれないよ」

「うーん、それはないと……思いたいんだけどなぁ……」

換装型キャスト:みしゃさんの表情は意外ところころ変わり、今はタハハ……といった風情の苦笑いをしていた。
一方のベルさんの顔は険しい。枯葉さんが心配なのと、本部への不信の両方があるのだろう。

そうなのだ。今の僕たちは何より本部を信用していない。
A.P.238/7/7の事件の爪痕は(仮)にもこういう形で残っている。
絶対令の恐ろしさも当然だが、あの事件の後で噂が広がった虚空機関やフォトナーという陰謀論じみた謎の存在が不安に拍車をかけているのだ。

そして僕はと言えば、まったく個人的な理由で途方に暮れていた。

インターフェイス>メインメニュー展開。
自分のステータスを確認する。
サブクラスはフォース/レベル70、アークス規定値最大レベルだ。問題はない。
問題はメインクラスだった。

バウンサー/レベル1。

いまだ見慣れないクラス名。意味合いは用心棒、ではなく、『跳躍する者』。

武装を確認する。

ユニット、つまり防具はキングスシリーズ一式。
一世代前の高耐久防具である。
僕がこいつを手に入れた当時は結構性能のいい部類だったのだが、もう型落ちといっていい。
ただ、慣れない武器で戦う際に、HPを補強できるという点で今は心強かった。
今は光学迷彩を展開し見えないようになっているが、強固な力場が僕の周囲をHPという形で守っている。


武器、ロゼフロッツ/リヒト。
むき出しのナイフのような凶悪な形状。刃渡りはおよそ80cm。ナイフどころかマチェータに近い。
黄色いフォトンが雷光となって漏れ出ている。それが両足に二対ついていた。
本部からの支給品。全クラスで装備可能という点とPA:モーメントゲイルがプリインストールされている点が通常のジェットブーツと異なる。
強化値は+10、最大値になっている。


支給された昨日の夜に、慌ててアイテムラボに駆け込んで強化したことを思い出す。

ラボで対応したのはモニカという新人店員だった。
できればベテランのドゥドゥが良かったが、四の五の言ってはいられない。
強化に必要なグラインダーやメセタは自己負担。大量のそれらをカウンターに積み上げて、ロゼフロッツの強化を開始した。

武器の強化はそのレアリティに準じて難易度が変わる。
ロゼフロッツ/リヒトのレアリティは7。コモンよりは難易度が高い。しかも、ジェットブーツは最新の武器だ。
モニカが失敗しても当然のことなのかもしれない。

「が、が、がんばりますぅ……」「はわわ、ごめんなさいぃ……」「なんとお詫びしていいかぁ……」

ダメだ。腹パンしたい。
その声の節々から、虐めてオーラがにじみ出ている。
沸々と胸の裡から湧き上がる負の感情を堪え、ロゼフロッツの強化値が最大になる頃には僕のメセタとグラインダーが随分と減っていた。


……こめかみを抑えて嫌な記憶に蓋をする。

ともかくも、このブーツは一応使用可能と言える。
若干不安ではあるが、本部に悟られない為にはクラス変更はできない。
しかも、チムルに来る前にアイテムパックを整理してしまい、倉庫にその他の武装を預けたまま。
不幸中の幸いだがムーンは五つ残っている。

「やってみるか」

いきなりの実践だが、口に出して覚悟を固める。

「どうしたんだ、ごろーちゃん? その足にあるのユニットじゃないんだな!」

いつの間にか横にオタさんが来ていた。今日はやたらそういうことが多い。

「ああ、昨日新クラス:バウンサーの、というかその固有武器:ジェットブーツの先行テスターに選ばれたんだ。こいつはそのジェットブーツ」

「なるほど。Boってのがバウンサーか」

細かいステータスは不可能だが、クラスや武装程度なら他のアークスからも認識することができる。
オタさんは僕の武装、レベルを確認したわけだ。なら話が早い。

「レベル1なんだ。みんなの足を引っ張りそうで」

「ま、人数あんだけいるし大丈夫さ。いいレベルアップになると思うぜ。それに、レスタやザンバースしてくれるだけでもありがたいんやで」

「ザンバースか……。たしかに下手な火力でテク撃つよりか良さそうだ」

風属性テクニック:ザンバースは術者の周囲にフィールドを展開する。
そのフィールド内で発動されたPAおよびテクニックのフォトンと同調し、反復。元の威力の5分の1程度の追撃が敵に襲い掛かる。
自身に火力が皆無であろうとも、フィールド内にいる仲間が多ければかなりの火力になる。

うん、決めた。とりあえず、さわりだけ動きを確認しつつ他人の補助をしながら立ち回ろう。

「じゃあ、オタさん。すまないけど寄生させてくれ。補助はやるから」

「おう、いいぜ。よろしくな!」


そして、僕らもダンス陣営に走っていき、加わった。

当たり前だが僕も(仮)なのだ。
皆が踊ってるならそれに加わる。それが(仮)クォリティ。


腰を落としてシェイク、1、2、ステップしてターン。また腰をクイッ、クイッ。

いつの間にか26人全員が同じダンスを踊っていた。これほどの人数ともなるとステップを踏むたびにザッ!ザッ!という大音響となる。

妙な一体感を感じる。気分は昂揚し、全員の気持ちが一つになっていく。

枯葉さんを心配する気持ちはもちろん全員にあったが、未知の26人大規模作戦を楽しもうという気持ちも全員にあった。

 

 


 
 

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