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ファイル1:再起動/リブート





「もう組んでいいんじゃないの!」

「そうね。よし、皆。4:4:4:4:4:3:3で組むよ!」

「4:4:4:4:3:3:3:チルでもいいんじゃ?」「!? かれちゃん一人で助けちゃんし!」「また噛んでるよ、チル……」

焦れたようにりあこさんが叫び、応えて湊さんが宣言する。さっきこーきさんやチャコさんと決めたのだろう。
チルさんがぼっちにされかけるのはいつものことだ。

「3人のパーティはあたいこさんを確保したらPT内に組み込むこと。4人のパーティはそいつらの護衛役っていうことで」

「WB役は分ける? テク職は?」

オタさんがつっこむ。いずれも作戦行動において重要な役割を果たす。
WB:ウィークバレットは着弾点に浸食、脆弱化し、通常の3倍のダメージを期待できるようになる。MPSEで弱体化予報がされているが、それでも戦術の核であり続けるだろう。
テク職は言わずもがなの補助要員だ。シフタによる火力増強、デバンドによる硬化、レスタによる回復、さらに広範囲攻撃手段を持ち合わせている。

「うん、それだけできるだけ分けて、あとは適当で」

パーティを組んだ場合の最大の利点は互いの状態・位置を把握できる点だ。戦闘不能や状態異常も分かるし、マップを見ればどこにいるかもわかる。
逆に言えば、パーティを組んでいないならマップ上で位置を確認することはできない。マップ機能は多くのアークスから改善要求があるが、いつ是正されるかはわからない。

「近くからひろった」

「パーティ組んだらダンス止めて離れるのよー」

僕はオタさんがリーダーのパーティに参加。
僕に続いて近くにいたエミナさんが入る。
だが、いつまでたっても4人にならない。オタさんがきょろきょろしている。

「あれ? パーティ入ってないやつ他にいない?」

「いや、これでいいのよ。4:4:4:4:4:3:3だから、3人のパーティは2つできる。心配しなくても4人パーティの奴らが守るからさ」

「ふーむ。じゃあ、たのんだぜ」

どうやら僕たちが枯葉さん救出パーティのうちの一つになったようだ。

オタさんは僕とエミナさんの顔をチラッと見た。(ま、なんとかなるやろ!)と顔に書いてある。
余計不安になったのか、エミナさんが僕につぶやく。

「大丈夫かな?」

「レベル1の僕が言うのもなんだけど、大丈夫だよ。パーティの組み合わせとかあんまり関係ないし、マルチとしては26人だしね。どんな敵だって一瞬で溶けると思う」

りあこさんと誤解ちゃんを見ながら言う。
彼女たちは、攻撃範囲内に入った敵という敵を鎧袖一触切り刻んでしまう。猫は猫でもネコ科の肉食獣だ。ファングパンサーなんて目ではない程の。

また、パーティを組むことによるメリットがPTメンバーの状況・位置把握でしかないのなら、パーティメンバーが足りないことによるデメリットもほぼなかった。

「それもそっか。カレやんをパーティにいれるのがボクたちの役目だから、戦力自体はへっぽこでもいいんだね」

「そういうこと。枯葉さんもエミナさんがいると安心できるだろうし、この構成でいいと思うよ」

だといいけど、と苦笑しながらエミナさんは言う。
彼女は肩幅こそ広いが、ほんのちょっぴり自信が足りない。
ニューマンなのにハンターを選ばざるを得なかったからか自分をへっぽこと称するほどだ。
しかし、誰からも信頼を受ける人望と穏やかな気性が持ち味である。
枯葉さんは意気消沈しているかもしれない訳だし、そういうメンタルケア的な点でエミナさんの存在はありがたい。

もう一つの3人パーティの方を見ると、煮さん、チルさん、チャコさんの組だった。
あちらも枯葉さんと仲が特にいい面子が揃っている。偶然にしては出来すぎているので、さりげなく誰かが手を回したのかもしれない。
詰めが甘いとすれば、僕らのパーティに女子が肩幅さんくらいしかいない点だ。
可愛い娘好きの枯葉さんなら、煮さんたちの方に行って逆ハーレムを楽しみたがるに違いなかった。


「よし、みんなパーティ組んだか? 今のうちにムーンの数を揃えたほうがいい」

こーきさんからの提案。ムーンを補給していないなら、今のうちに数を揃えようということだ。
当然異論はない。二次被害なんてまっぴらごめんだ。生存能力の高い人に優先的にムーンを渡していく。

同時に、忘れずに自分のマグに餌を与えた。
とりあえず回復薬のモノメイトを2つほど与えると満腹になったらしく飛び跳ねて喜ぶ。

マグは、アークスを補助するために造り出された機械生命体だ。
各種ステータスを底上げし、戦闘支援、フォトンブラスト、生産などを行ってくれる頼もしい存在である。

僕のマグは法撃力特化の育成方針を取って、今ではベレイという形状パターンをしている。
戦闘支援ではHPの回復をしてくれる頼もしい相棒だ。

「ところで、どうやってあたいこさんのとこまでいくんだ? 海底って……」

「それについては俺が説明しよう!」

のそり、とでてくるブロッコリー。上様だ。

「レンジャーの超知覚能力で把握できたところによれば、海岸線をこの角度で海に潜っていくと、不自然な海流があーる。たぶん彼女はそれに捕まったのではないかな?」

レンジャーにそんな知覚力あったか……?と疑問に思ったが、事実あったことを思い出す。

トラップサーチ。

ステルス状態で設置されている様々な罠を予め識別可能となるスキルだ。
上様はトラップ関連に特化したレンジャーである。その彼ならではの着眼点であった。

「でかした上様!」「さすがだぜ!」「このブロッコリーは一味違うな!」「わーわーわー」

もみじさんが上様を褒め称え、やんややんやと皆がそれに続いて上様コールを始めた。

「というわけで、上様を先頭にして海底に突入。そのあとは適当に、分岐が来たら散開ね」

「おう!」

走り出す。ウォパルの太陽はすでに沈みつつあり、奇しくも僕らは夕焼けの地平線に向かって走っていた。

全員が海中に入る。

呼吸の心配はない。もとよりアークスは呼吸をしない。
たとえば、常人は惑星アムドゥスキアの火山ガスを微量でも吸い込んだ時点で死に至るし、幾度も襲撃してくるダークファルス・エルダーとは真空環境下で戦っている。
僕らは惑星探査のために心肺機能を改造され、外気を用いずに酸素を血中に送りこめるようになっている。
アークスの適正とはそうした人体改造に適応できるかを意味しているのだ。

『ここだ! ここに怪しげな通路の存在を感じるぜ!!』

先頭を泳ぐ、というより超重量のために海の底に足を付けてずんずん走っている上様が、チムチャを発しながら大きな岩に近づいていく。
岩にのめりこむように消えた。

……ホログラム?

いまや中間地点で泳ぐ僕にも分かる。岩に向かって吸い寄せられるような海流。やはりあそこに枯葉さんが迷い込んだのだろう。
だが、この惑星でホログラムなどを扱うのはアークスくらいしか考えられなかった。だれが、何のために?

岩の中に吸い込まれた僕らは、気が付いたらいつもの光のパイプを通っていた。

 

 


 
 

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