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ファイル1:再起動/リブート





パイプを抜けるとそこは海底だった。
遥か頭上から降りそそぐ青く澄み渡るような光が幻想的な空間を作り出している。上が夜ならこんな光は無い筈なのだが、事実明るかった。

「おおっと、テレポーター!」

「岩の中にいる!」

「順序が逆やな……」

ひとしきりやけっぱちな軽口を叩いたあと、顔を見合わせる。26人全員来ているようだが、皆の表情は暗い。

「なあ、俺たちテレポーターには入らないつもりじゃなかったのか? 脳みそ吸われるとかいってたが……」

「まさかあんな場所にテレポーターがあるとはな!」

オーバーなリアクションで皆の気持ちを代弁するメルさん。上様も負けじとオーバーに答えるが目がほんの少ししょげている。
僕らも上様を責める気はなかった。
それに、現在位置の表示はチームルームとなっている。枯葉さんの現在位置もチームルームなのだから、これで正しくはあるはずなのだ。

「通っちゃったものは仕方ないよ。こんなところにあるテレポーターが本部と連携取ってるとは限らないし……。それに、もう後戻りはできない」

僕はそう言いながら振り返る。
そこには苔の生えた海底の分厚い岩盤があった。
普段ならあるキャンプシップへのテレポーターなんてなかった。
僕らは、一方通行のテレポーターに入っていたのだ。

「ごろーちゃんの言う通りだぜ。もう気にしてても仕方ないって! それより今はあたいこさん探そう」

オタさんが僕に同調してくれる。
(仮)で大きな作戦をとってグダグダにならないことの方が珍しい。
この程度の失敗は日常茶飯事である。
今回は流石にリスクが大きいが、今は後ろ向きになるべき時ではなかった。

「! 皆、なにかくるようじゃぞ!」

つくねが叫ぶ。
海底には多数の壁、崩れた柱、岩があり、そして膝下は海水に没している。どこから敵がやってきてもおかしくはない。
肉眼ではなく、マップを頼る。

あらゆる生物、機械にはフォトンがある。それを扱えるのはアークスだけだが、生きているモノにはフォトンがあるのだ。
アークスは、無意識でそのフォトンを感知し、マップと称されるアプリケーションに反映している。

中心は自分。IFF:敵味方識別により、パーティの仲間は色付で明るく表示されている。近づいてくる三角の光点が敵である。

2時の方向、16体。

全員が身構え、近接連中は我先にと駆け出し、もみじさんやろんちゃんは前衛を補佐すべくタリスを投げこむ。

つくねの声を聞いた次の瞬間には、僕も戦闘形態に移っていた。

戦闘形態といっても変身したりオーラを纏う、などの変化はない。一部にはオーラを纏うクラスはあるだろうが、今の僕はそうではなかった。
ただ、主観のみが切り替わる。他者からはその変化は伺い知れない。
僕だけでなく第三世代アークスはみんなそうだ。

視点変更。
フォトンによる周辺知覚に感覚を委ねる。
自分の背中を5mほどの後方から見下ろす視点/ビハインド・ビュー。

インターフェイス変更。
メインメニューがサブパレットに切り替わる。
同時に己の損傷は痛覚ではなくHPを通して視覚で判断するように。

それだけだ。それだけで、アークスは超人になる。

 

 


 
 

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