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ファイル1:再起動/リブート





今の僕はBoFo。テクニックと近接攻撃手段の両方を持ち合わせる。
だが、法撃力はお察しで、使用可能なPAはモーメントゲイルのみ。その挙動、性質もまだ僕には分かっていなかった。
とりあえず、中衛補助要員として状況を見て動く。走る。

敵はタロベッコ8体、タグ・アクルプス8体。

もみじさんとろんちゃんの放ったタリス:セイメイ・キカミに闇のフォトンが収束。禍々しい手を形成した。黒色の長い腕が尾を引いて敵に襲い掛かる。
イル・メギド、現在のMPSE状況において主流となっている攻撃テクニックである。

誰が可愛いと言い出したのか、どうみてもグロテスクな2足歩行の茶色い小人、タロベッコは腹部をイル・メギドに貫かれ、苦悶に体を止める。
黒い手はIFFで敵性と判断された対象に自動的に襲い掛かる。
たとえ一度貫いても、生きているなら引き返して食らいつくほどにそれは貪欲だった。

しかし、イル・メギドがとどめを刺すことはない。
すでに陣形の乱れた群れの中心にはりあさんが入り込んでいた。抜刀。一閃。カンランキキョウの花が咲く。
タロベッコの群れはそれだけで壊滅する。

一方、タグ・アクルプスは海中に潜ってイル・メギドの襲来をやり過ごしていた。
紫色のサメのようなそいつらは急速に浮上し、水上から3mほども回転しながら飛び出してくる。
それは射手たちにとって恰好の的だった。
無数の、大小の、弾丸という弾丸がサメの体を穿っていく。
レーザーだったり金属製の弾丸だったり炸薬が入っていたり様々だが、いずれであっても絶命に足りうる一撃が殺到し、タグ・アクルプスたちも全滅した。

瞬時に命を絶たれた海王種の亡骸からフォトンの柱が立ち上る。

『枯葉さん! いまの見えた!?』

僕はとっさに叫んだ。
フォトンを用いる戦闘が行われれば、その波動はたとえ壁があっても超えて、かなり遠くでも知覚可能となる。

『見えました! ええと、南南西方向! ってきゃー!? なにこれー!? ちょっ、ばっちいっ』

何が起こったのだろうか。
ほどなく北北東の方角からダメージ表示が観測できた。
枯葉さんが戦闘に移行したらしい。
味方のダメージは赤色で警告表示される。枯葉さんは継続的に少量のダメージを負っていた。

戦闘しながら話すことはそれなりに危険だ。
なんなく出来る人もいるが、僕は無理だし、枯葉さんに負担をかけていい時ではない。今は一刻も早くそこに向かうべきだった。

「ああっ、マイ!」

煮さんが駆け出す。あの人フォースなのに。

マップを見れば光点の数が刻一刻と増えていた。はっきり言って異常な数だ。まるでバーストしているかのように現れる。
アークスが侵入した区域では生物の活動が活性化する。
枯葉さん一人ではほとんど敵は出なかったのだろうが、今はこの狭い区域に27人ものアークスがいた。

ひょっとして12人以上同じ作戦区域に送り込まない今までの作戦規定は、こうした事情もあって策定されたのかもしれない。

「煮! 突出しすぎだ」

煮さんの側面から襲い掛かる水色と赤のカラフルな蟹を逆袈裟で仕留めたのはこーきさん。
シュンカシュンランは一歩一太刀にて三歩奔る。背後には今切られた蟹だけでなく、2体の甲殻類が寸断されていた。

「ありがと! でも急がないと!」

そう、急がないといけない。枯葉さんのいる方向からは幸か不幸か赤いダメージ表示が未だに見えている。

『枯葉さん無理しないで! ガン逃げでいいから!』

言いながら。走りながら。僕は自分のステータス画面を確認する。物凄い勢いでバウンサーのレベルが上昇していくのが分かる。

生物が死んだときに発生するフォトンは、一部こそPSEの呼び水になるが、実はそのほとんどが周囲のアークスに吸収される。
そして、アークスのフォトン総量を高めるのだ。
人間はもともと段階的に成長する生き物だが、フォトンによる大幅な成長をレベルアップという。

EXPブースト+100% トライブースト+100%
迷わずブーストチケットを使用、一時的に自身のフォトン吸収性が大幅に向上したことを感じる。
チケット上のこの装置は、コスチュームに標準装備されているスロットに差し込むことで効果を発揮する。

流石にこんなチャンスを逃すわけにはいかない。
いつになったらアンスールに帰れるのか分からない状況になった以上、レベルという不動産は確保しておくに限る。


状況は混戦状態。26人という圧倒的物量で、延々と無尽蔵に進行してくる膨大な量の敵を殲滅しながら北上する。
当然、漏れもあり、僕の方にやってくる敵もいた。

「低レベルだからって見くびるな!」

僕の身体が加速し、五度に渡る縦横無尽な飛び蹴りを行った。

モーメントゲイルの使用感は良好だった。
ダメージこそレベルと武器のせいで少ないが、広範囲へダメージを与えることができる。つまり、一瞬とはいえひるませることができるのだ。
その一瞬で自分の命をつなぐことができ、仲間の援護を期待できる。

「ナイスだごろーちゃん!」

「すっご……」

案の定、オタさんとエミナさんが叫びながら敵に追撃を開始する。
それを見た僕は、モーメントゲイルの派生:吸収効果のあるフィールドとザンバースを同時に展開した。
事前にもらっていた運用指針によればブーツPAは3種あり、どれも派生でテクニックが発生する。モーメントゲイルの派生はザンバ―スだった。

ザンバース内で行われたオタさんの攻撃は、きっかり1秒後に追撃が発生し、事実上火力を20%上昇させる。
初めて使うにしては、いい使い方ができた。

同時に、これはビハインド・ビューで無ければ使えないとも思う。

ビハインド・ビューの利点は三つあり、そのうちの一つが視点の固定だ。
モーメントゲイルは縦横無尽に行って来いを繰り返した挙句、派生でコマのように高速回転を行う。
肉眼でそれを御そうとしても訳が分からないことになる所だが、フォトン知覚状態の僕は回転する自身を背面から冷静に見つめることができる。

「オラァ!」

轟音が鳴り響く。
先頭ではオルグプランが10匹いっぺんに出てきたらしく、それを処理しているのだった。
轟音を鳴らしているのはランチャーでもソードでもなく、メルさんの拳だ。
BHS:バックハンドスマッシュ。最少の動きで、かつ最大の威力を発生させる裏拳の戦技である。

「チッ、かってぇ頭だ……」

嘯くメルさん。一方、突然の激痛に耐えかねた全長5mほどの巨大生物は苦し紛れに拳を振りぬく。
メルさんはスウェーでそれを躱した。ヂッ、と髭を削りそうな程にスレスレの回避。
返す刀で再度BHS。オルグプランの頭部が砕けた。

あれもビハインド・ビューの利点の一つだ。
状況把握力の向上。
あれほどの体格差があると、普通はどこを見ていいか分からなくなる。
時には敵の体の一部で視界が遮られ、敵のわずかな動きを見逃す。
あんな回避は望むべくもないだろう。

そして最後の利点は、恐怖の、あるいは躊躇いの払拭である。
こうして見れば、オルグプランが小さく見える。
そもそも、アークスにとっての敵は基本的にデカい。
最もオーソドックスな敵であるダガンですら、実は犬よりデカい外骨格生物だ。
デカいだけでなくキモい敵だって沢山いる。同時にキモいのではなく、良心が痛むほどにかわいい敵もいる。
それらを直視しないことがアークスの積極的な戦闘スタイルに寄与しているのだ。

もちろん、恐怖や躊躇いをまるで感じないアークスもいるにはいるが、それはあくまで例外である。

返り血を浴びながら、死んだ目で微笑を浮かべる誤解ちゃんは、前線であまたの敵の首を踊るように刎ねていく。
そのマイペースさはろんちゃんやシャニさんとは異質なもの。
例外ではあるが、同時に生粋のアークスとは誤解ちゃんのような存在だ。

「分かれ道。どっちいく?」

しゃべった! いやそもそも誤解ちゃんはちゃんと喋る。でも返り血をぬぐいもせずに振り向いて問うてくる誤解ちゃんは正直怖かった。

海底は複雑な地形である。
いまは虹色の輝きがゆらめく壁が前方を遮っており、右と左に道が続いていた。
左はどこまでも道が続いており、右はすぐに折れて北に向かっている。

「マップ構造からして、右の方があたいこさんに近そうね」

「じゃあ右だ!」

湊さんの言葉で煮さんが駆け出す。

「じゃ、俺らは左にいくぜー」

オタさんの決定に異論はない。右が近そうというだけで左の可能性がないわけではなかった。
当然可能性の高い方に行きたがるパーティが多く、僕らと護衛のパーティを除いた15人が右にいく。

 


 
 

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