ファイル1:再起動/リブート
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「あっ! みなさん、北へ続く道がありますよ」 せーれさんが指差した方向には確かに道があった。 そして、枯葉さんの戦闘表示がその先にあり、こちらに向かって移動していた。ひょっとしたら、僕らの道が正解だったのかもしれない。 別に枯葉さんは密閉空間に隔離されていたわけではない。ただ、奥地で敵と出会って逃げているだけだ。彼女からみて南南西に進んだらこういう結果になったのだろう。 「よし、いこう!」 「待ってください。システム、スキャンモード起動。……妙です。構造が海底のそれではありません」 いいんちょうが赤メガネの奥で赤い双眸を光らせながらオタさんに忠告する。今のいいんちょうは正気であり、言動に乱れはない。優等生のキャストである。 立ち止まって見れば、確かに足場も壁もほんの少しこれまでとは違う。 「一番槍は俺に任せな!」 「あたしもいくわ。何があっても死ぬことはないしね」 皆の先輩赤虎が走り、続いて皆の盾シャニさんが飛び込む。僕らもそれに続いた。 無論、敵もやってくる。しかし、そいつらはあまりも異質だった。 「なんだ、こいつらは……!?」 驚愕しているほらたさん、彼女は任務中はいつも女軍人のような口調と顔をしているのだが、今は目を見開いてそいつらを見ていた。 データ照合:該当なし。名称不明、弱点属性不明、レベル不明。 それらのデータはアークスシップから送られてくる先達の調査結果によるものだ。 身長は人間と同程度。190cm前後だろうか。 そいつらはタツノオトシゴのような顔をしてこちらに歩いてくる。 シャニさんが前にでる。振り上げたソードによるガードが後続への被害を防いだ。 そして、4人が躍りかかる直前に、一枚のタリスが敵陣内部に入り込んでいた。 「まじかる☆まいろん、ぱわー!! くらえーゾンディール!」 ゾンディール:雷属性テクニック。空間に強力な磁界を発生させ、フィールドの中心点に向かって敵の位置を収束させる。 いくら見たことのない敵であってもこれを受けて生きているものはいない。しかし。 「うわっ!まだ生きてるよ!?」 エミナさんが悲鳴を上げた。 「燃やしちまえ! 汚物は消毒だ!」 いつのまにか近づいていたオタさんがフレイムビジットを構える。それは火炎放射に特化したランチャーだ。 「何なんだこいつら? やたら硬い感触だったぜ」 赤虎が炭を転がす。無論、それはボロボロでなにも分かるはずは無かった。 「知的生物だったよね……?」 ウォパルの海底にある遺跡を作ったのは彼らなのだろうか……? 『クソマップだ! こっちは外れ。オタ、そっちはどう?』 『あー、すまん。今未確認生命体と戦ってたわ。あたいこさんの探索にもどる。あと、ここなんかおかしいぞ』 湊さんだ。向こうの陣営はこれから戻ってくるとなればそれなりに時間がかかる。 『すいません! 出来る限り健闘はしたんですけど、力及ばず……戦闘不能です!』 戦闘不能。 『あのあのっ! で、できれば早く来てください! あたしの体がー!!』 もはや一刻の猶予もないらしい。そういえば、ばっちいとか言っていたのを思い出す。 「おい、枯葉さんも心配だが、まだくるようだぞ! 走れ!」 ソードを振り抜きざまに、新しく湧いて出てきたエビとシャコの合いの子のような敵を殻ごと叩きわるほらたさん。 ここの敵は一様に生命力が高いようだ。相手をしていたら時間ばかりを取られる。
四方八方から攻撃が飛んでくる。やつらが腕に着けている銃から、大砲から、そして船から光弾が雨あられと降りそそぐ。 「や、やばくないかな?」 「! 護衛対象を視認しました! 対象の周囲に敵影1!」 いいんちょうがブーストダッシュをしながら叫ぶ。 『うあー!? オイルまみれにされてるっ!? 早くムーンお願いします!』 まさしく、枯葉さんの体は油まみれで、うつぶせに倒れている。 「いや、これオイルっつーかゲ……」 『だまれ』 「あ、はい」 相変わらず失言の多いオタさんだった。 口から油を排出しているのは巨大なサンショウウオのような敵だ。 ムーンには効果範囲が存在する。おおよそ10mくらいだ。 「こっちだ!」 シャニさんが襲い掛かってきたサンショウウオの注意を引き付ける。 その隙にせーれさんがムーンの効果範囲内へ。 「みなさんありがとうございますっ! それからそこのサンショウウオモドキは絶対許さない!!」 てらってらの顔を手で拭って開口一番のセリフである。 「WB装填。どこからいきますか?」 「とりあえず胴体!」 現状、アークスが初めて対峙する敵である。 いいんちょうはシャニさんと交戦状態に入っているサンショウウオの胴部にWBを発射。 ならば僕は何をすべきか? 補助? 回復? 残念ながらレベルが急速に上昇したといっても15レベルほど。迂闊に激戦区に侵入すれば流れ弾で瀕死になりうる。 つまるところ、今の僕にできることは、確率の低い状態異常攻撃を行うか、あるいは観察を続けること、そして今来る15人に情報を伝えることだった。 戦闘中のチムチャは苦手だが、幸いにも僕は敵からほぼ無視されていた。 『湊さん、別れた道から進んで右手、つまり北に抜け道がある。そこから先は海底じゃない。敵は知性があって硬くて、大砲や水上艦を使用してくる』 『ふむ、了解だ。ところであたいこさんは無事かい?』 『いま僕らのパーティに加入したところだよ。うん、元気だ』 枯葉さんはサンショウウオの死体の上でガーツポーズをとっていた。 意外とあのサンショウウオは弱いらしい。WBを撃たれた後は怒涛の攻撃により、汚物をまき散らしながらあっけなく死んだ。 しかし、状況は悪化している。 「あの船やっかいだなぁ……」 アグさんの言う通り、面倒なことになっている主な要因は水上艦である。 『そろそろ水上艦が見えてこない?』 『見えた見えた。でもそっちに注意いってるから、こっち気づかれてない』 『なんとか乗り込んで壊せないかな? あの大砲を止めてくれるだけでもいいけど』 『やってみようじゃないの』 これでよし。あの15人なら一瞬で制圧できると確信する。
天井は時折虹色に輝いている。目を凝らしてみれば、あれはなんらかの強力な力場で斥力を発生させ海を跳ね除けているようだ。 一方、床は石造りで出来ており、所々に鮮やかな草花が生えていた。幾何学的な彫刻が彫られた石柱があり、神殿のようなものを形作っている。 そして僕は――。
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