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ファイル1:再起動/リブート





(仮)が未知領域で死闘を繰り広げている最中、(仮)のボス、ヨシオもまた別の戦いをしていた。

「まったく! 心配して来てみればなんたることか! 仮にもチームリーダーが婦女子にセクハラなど!」

(ウルクちゃんマジでド偉い人だったかー……)

目の前で自分を説教しているのはレギアスである。
ヨシオのラッピースーツは脱がされ、赤フンドシ一丁で正座させられていた。

ラッピースーツは高性能パワードスーツ。触覚も嗅覚も味覚もすべてそのまま着用者に伝えられる。
何食わぬ顔をして近づき、挨拶代りの抱擁を敢行したのがそもそもの間違いだった。
可愛い形を利用して豊満な胸に顔を埋め、ウルクの匂いをスンスン嗅いだ時は天国にいるようだとさえ思った。
はじめはウルクもにこやかな顔で応対していたが、後ろのテオドールとかいう男がキレたのだ。

「う、ウルクから離れろぉー!」「ちょっ!テオ!?」「ウルク!君には分からないかもしれないけど、そのスーツは五感を正確に伝えるんだ!」「へっ!?」

以後はてんやわんやの大騒ぎである。
闇のオーラを発するテオドールと一騎打ちし、騒ぎを聞きつけられて来たのがまさかの六芒均衡一位だった。
今ではテオドールと仲良く2人でお灸をすえられている。

「あー、もういいです。レギアスさん。二人とも反省しているみたいだし」

「ヌ……。お主がそういうのであれば、よかろう」

苦笑するウルクに宥められたレギアスの、二度とするなよ、というキャスト・アイの視線を感じながらヨシオは相好を崩す。

「へへ、分かってるって。ウルクちゃんが超偉い人っていうのはよーく分かった。……で、さっき俺がハグする前に言っていたプロジェクト・リブートって何なの?」

ヨシオは他の(仮)メンバーほど本部を毛嫌いしているわけではない。
虚空機関やフォトナーといったきな臭い噂は噂に過ぎないし、絶対令の有用性も十分に理解していた。
あのあとのダーカー侵入には流石にどうかと思ったが、今行われている急速な変化から察するに自浄能力はあると踏んでいる。

そして、その浄化作用の源が目の前のウルクだということをすでに直感で感じ取っていた。

「うん、この間の事件でアークスたちの士気が目に見えて低下したでしょ? それは、彼らが上層部の言いように利用されている!って感じているのが原因だと思う」

レギアスが俯いた。目に見えて沈んでいる。不本意とはいえ、事件の片棒を担いだ責があるのだろう。
そして、ウルクの指摘は的を射ている。

「おう、うちのメンバーもそんな感じだったわ。でもよ、ウルクちゃんはそこをどう払拭するつもりなんすか?」

「話そうと思うの。皆に真実を洗いざらい話して、信じてもらう。そして二度とこんなことがないようにする!」

ヨシオはぽかーんとしてウルクを見つめた。それは彼女の年相応に若い意見であり、途方もない危険をはらんでいるものだ。

「それからもう一つ! これからのアークスがどういう存在になるべきなのか皆に考えてほしいの。つまりアークスとはなんぞや〜?っていうのを再定義したい!」

それがプロジェクト・リブートなのだ。と大きな胸を張って宣言をするウルク。

アークスとはアークスである。
軍人ではない。冒険者でもない。調査隊でもない。アークスという概念は非常にわかりづらい。
それを再定義する。
……それを(仮)がやる?

「あー、ウルクちゃん、わかった。あんたの理想と思想がとても純粋なことがよくわかったぜ。でもよ、俺は真実ってのを知らない。だから答えなんて出せない」

そう無難な答えを出す。(仮)のメンバーが物凄いモノに組み込まれそうな気がして怖かったからかもしれない。決定を先延ばしにしようと試みる。
だが、それはずっと前からあっけらかんと覚悟を決めているウルクには通用しないのだ。

「わかってる! だから、まずヨシオさんにも聞いてほしい。今までのアークスが何だったのかを。ルーサーのことを」

そんな真実聞きたくねえ!と答えることは簡単だった。
だが、既に気になっている。
ルーサーというのはダークファルス・ルーサーのことだろうか?
奴は今までに何度か襲来してきている。そのたびに低い士気の中で苦労して撤退させてきた。
そんなダークファルスがアークスと一体どう関わってきたというのか?

気づけばヨシオはウルクの話に耳を傾けていた。

 

 

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