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ファイル1:再起動/リブート





「ごろーちゃん! ごろーちゃん!?」

気づけば、僕はその扉の前で立ったまま気を失っていた。オタさんに肩をつかまれて揺さぶられている。
僕は扉を開こうとしたのだろうか?
したのだ。
目の前の扉は開かれており、ひんやりとした空気がその中から漏れ出てきている。

「あ、起きたか……。どうしたんだよ、パニックにでもなったのか? もう戦闘は終了したぜ?」

パニックというのは自律神経に一時的な障害を与える状態異常のことだ。

セルフチェック。
パニックにはなっていない。
どこにも自分の肉体に異常は見受けられない。

だが、被害はあった。
僕のマグ:ベレイが機能不全に陥っている。
落下こそしないが、本来常に行われているはずのステータス補正が行われていない。
マグも生命体だ。僕が影響を受けなくても、こいつには異常があったのかもしれない。

ベレイを格納し、別のマグを取り出す。
ピート、球状の赤いボディと大きな腕が特徴のマグだ。
法撃特化のベレイと微妙に異なり、こちらは法撃力と技量をバランスよく上昇させる。

「もう大丈夫だ。すまない、なにかに吸い寄せられたみたいだ」

扉の奥を見ながら言う。長い回廊が奥へと続いているようだ。

「ごろーちゃん、大丈夫ですか!?」

枯葉さんが心配そうに言う。枯葉さんはそこらの海水で洗ったのか、もうオイルまみれにはなっていない。

「大丈夫だって、みんな戦闘は終わったのかい?」

言いながら周囲を確認する。
僕の周りにはあの26人がいた。
僕を心配そうに伺う者、戦闘終了後の昂揚に満ちている者、周囲の警戒を怠らない者、これからどうすべきかを相談する者。
海王種はすべて倒され、死骸もすでにフォトンに還元されているらしかった。水上艦は残っているが、主砲はすべて破壊されている。

「ああ、なんとか終わったぜ。あとはどうやってここから出るかだ」

こーきさんが天井を見上げながら言った。揺蕩う水面が空中にある。

「うー、本当にご迷惑をおかけして、なんとお詫びしたらいいのやら……」

「カレやん、今度から気を付ければいいんだよ」

「そうだよマイ! それにこんな場所見つけるなんてお手柄だよ!」

「そうね。チムルの近くにこんなのあったなんて気づかないとまずそうだし」

エミナさんたちが枯葉さんを励ます。本人はまだ気にしているかもしれないけれど、この分ならすぐに元気になるはずだ。

今の問題はこーきさんの言う通り脱出方法だった。出来るだけのことを試してみるほかない。

「とりあえず、この神殿の中を見てみよう。ひょっとしたら方法が見つかるかもしれない」

「ここが海の上まで浮上したりとか? 可能性はあるんじゃねーの?」

チャコさんの推測はあながち外れていない気がする。
僕らは頷くと隊列を組んで神殿内に侵入した。トラップサーチ機能を持つ上様と防御特化のシャニさんを先頭にして2人ずつ入っていく。

「こうしてるとまるで冒険者みたいだな!」

「ファンタジーのRPGみたいじゃの」

回廊を歩きながら、オタさんとつくねがはしゃいでいる。
(仮)にはゲーマーも多い。
アークスシップは娯楽の少ない世界ではあるが、それ故に有志が提供するゲームをプライベートな時間を使って遊んでいる者もいる。

「大きな部屋に出るぞ。なにかがある! ……なんだあれは……?」

上様が注意を促す。
そこはドーム状の神殿のようだ。
中央には海底のスイッチのようなものと、この区域を示した模型がある。模型は水球に包まれていた。
だが、僕らの視線を釘付けにしたのはスイッチや模型ではなく。


奥にある、黄金のモノリスだった。


「俺、これどっかでみたことあるぞ……?」「私も」「わしもじゃ」

赤虎のつぶやきに、皆が同意する。

そうだ。僕もどこかで見たことがある。
だが、思い出すことができない。とても重要なことを忘れていたようだ。
絶対令よりよほど自然な、そして強固な思考制御を受けていたのだろうか。

そして、僕らはそれにアクセス可能なことを知っていた。

「……どうする? アクセスしちゃう?」

恐る恐るエミナさんが言った。不思議と、危険はないと直感している。

「したい人がアクセスするでいいんじゃない?」

チャコさんがそう言って真っ先にアクセスを行う。
それに続いて、オタさんが、エミナさんが、枯葉さんが、次々にアクセスをしていく。

僕もまた、それに触れた。

 

 

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