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ファイル1:再起動/リブート
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「……みんな見たかい? 僕は忘れていたけれど、シオンという女性と出会っていたみたいだ」 どう説明しようかと迷ったが、そう言ってしまうのがおそらく最も端的に情報を共有できる。 「ああ、シオンさん良い人だったな……」 オタさんが俯き加減に答えた。 「アクセスしていないひとにも説明してくれない?」 ぴさんがそう言う。当たり前の話だが、全員がモノリスにアクセスしたわけではない。 「見たところ、記憶の書き換えを行うシステムのようね。その記憶がなんだか分からないけれど、全員が上書きをされるのは危険だと思う」 マリさんの言う通り、この場にいてアクセスしていない人間はいつか必要になる。 「クベルタは、自身のメモリストレージ内にアクセス時のデータをすべて圧縮保存しています。ここで相談する必要はこれでなくなりました」 ナイスだいいんちょう。正気の時のいいんちょうは機転が利くのだった。 「じゃあ、とりあえずそのモノリスのことは置いておいて、脱出しますか」 「せやな」「おう」「賛成!」「うぃ」 湊さんの提案に満場一致で賛同し、模型とスイッチの方に向き直った。 「さて、では……これを、こうして、こうじゃ!」 つくねが黄色く光り輝くスイッチを両手で持ってグン、と引っ張る。ずごごごごご……!という轟音と共に地面が揺れだした。 「……崩れないよね?」 「大丈夫だろ? ちょっと外出てみようぜ」 不安そうなエミナさんとあっけらかんなオタさん。振動が終わらないうちに皆で神殿から出ていく。 「うわぁ、綺麗……」 誰かがそうつぶやいた。 「あとは、夜になるのを待って星空見て移動?」 「おふねはどうするー?」 「あそこの水上艦使えるんじゃないですかね」 もみじさんやろんちゃん、みしゃさんがワイワイと楽しそうに話していた。なるほどそれも浪漫があっていいかもしれない。 「盛り上がってるとこ悪いけど、どうやらお迎えが来たみたいだよ」 そこには水上艦とは比べ物にならない大きさの宇宙船が飛んでいた。 「あ、仮のエンブレムだ。もしかして、あれうちのチムル?」 「すげえ、あれって飛べたのか」 「普段飛んでるとこ見たことないしね」 「誰運転してんだろ?」 『オッスオッス!! 俺だよヨシオだよ!!』 「「「なんだボスか」」」 『おまいらがどこにもいないからトゥリアさんに聞いてみれば、なんだか面白いことしてんじゃないの! 色々探し回ったんだぜ!!』 トゥリアさんは(仮)のチムルでカウンターに常駐している受付嬢である。 (仮)のチムルは浮上施設の比較的開けた空間に止まり後部ハッチを開口する。そこには、いつものボスがラッピースーツを着て待っていた。 「なんだか、いろいろあった集会だなぁ……。すげえ疲れた」 チムルのソファーでオタさんがくたびれている。 「ホントにね……。でも終わってみれば楽しかったよ」 「オタもごろーちゃんも情けないな。これで終わりじゃないでしょ?」 そう言うチャコさんはなにやら顔がツヤツヤしている。そういえばこの人は冒険するほど機嫌がよくなるタイプの人だった。 「あの浮上施設のことも調べなきゃいけないし、あのモノリスだってここにあるってことは何かが始まる前兆かもしれない」 モノリス。今の僕たちにそれを纏めるマターボードはない。だが、チャコさんの言う通りこれは大きな一つの物語に繋がっていると確信する。 「みんな疲れてるとこすまねーなー。でも(仮)全体の、とゆーかアークス全体のでっかい問題があるんで出来れば協力してほしい」 機密情報とかあるから聞いたら後戻りできねーぜ、とボスは言う。 どうにも今日のボスはタイミングが悪い。
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