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「……ター。起きてください。マスター!」

身体を揺れ動かされる。薄く目を開けると、そこに小さな女型キャストがいた。
黒髪をボブカットにし、ピンク色の装甲で身体を覆っている。
身長は110cm前後、通常の女型キャストより大分小さい。

名前をドロナ。僕のサポートパートナーである。

サポートパートナーはアークスを支援するために設計されたアンドロイドだ。
アークスと混同しないために必ず体つきは小さくなるが、それなりの戦闘能力を有しているし、面倒な採集系オーダーもこなすことのできる頼もしい存在だ。

「ああ、すまない。寝落ちしてしまったようだ。おはよう」

「マスターがプレミアムサービスに加入されたので、パートナーコンソールに戻ってきたのです。ミニルームの時もコンソール設置してくださいよ」

サポートパートナーをマイル―ムに入れるためには、専用のコンソールを予め設置している必要がある。
これがサポートパートナーにとってのテレポーターなのだ。
彼女らはキャンプシップのテレポーターとアークスのテレパイプを除いて他の転送装置を使用できず、マスターの設定した範囲でしか移動ができないのだった。

しかし、僕がプレミアムサービスを必要としていない時は忙しくない時なので、彼女たちの力は必要がない。
ベッド一個あれば人間生活できるのだ。

「というわけで、ミニルームの時はお前たちは休暇だ。ダリアとマリネは?」

「ダリアは隣室で各クラフトシステムのチェック中。マリネなら朝食を作っています。モーニングはオムレツとクロワッサンでよろしいですか?」

「コーヒーは……」

「砂糖2つとミルク一杯ですね。承知しております。……ところで一つ質問してもいいでしょうか?」

ドロナは僕の左肩の辺りを見ていった。当然だが、そこにはあるべきはずのマグがいない。
続きを促すと案の定の質問をされる。

「マグをキャビネットに仕舞うとか、マスターはアルコールでも摂取していたのですか?」

「いや、ショッキングなことを言うようだが、よく聞いてくれ。……あいつは、ベレイは死んでしまったんだ」

「……マスター。それはないと思いますが」

「信じたくない気持ちは分かる。お前たちも可愛がっていたしな……」

「いえ、キャビネット内で昨日の夜にう」

「マスター! 朝食の時間だよ!!」

ドロナの声を遮って、マリネがトレイをもってやってくる。
青い髪をセミロングにした明るい少女だ。白いエプロンドレスが似合っている。
ベランダにはベッドだけでなくテーブルや椅子もある。朝食はここで食べるのが日課だ。

「いただこう。すまないがダリアも呼んできてくれ。オーダーを頼みたい」

「承知いたしました」

コポコポとコーヒーを注いでくれたドロナが隣室へ向かう。
言いつけとおり砂糖2つとミルク一杯。朝は糖分を摂って目を覚ましたいのだ。

まずは、とろっと蕩けるオムレツから。
口に含むと卵の中に色々な具材が入っていることに気付く。
1cmほどに角切りされたベーコンとタマネギ、それから濃厚なチーズだ。こんなもの美味しくないわけがない。

「へへー! マスター美味しい?」

「うん、これイケるな」

次はクロワッサンに手を付ける。パリパリとした皮を開くと中はしっとりとしていて柔らかく、微かにバターの香りがした。
二つあるうちの一つはブルーベリージャムを塗って食べることにする。
木製のヘラでジャムをすくって塗りつけているとドロナがダリアを連れて戻ってきた。

「何だマスター? アタシに用があるのか?」

ぶっきらぼうな口調で話す褐色の女。僕の三人目のサポートパートナー:ダリアだ。
黒いアークス用戦闘服を着て、淡い藤色の髪を降ろしている。

「ダリアだけじゃなくて、皆に話があるんだ」

サポートパートナーたちが顔を見合わせて露骨に嫌な顔をする。

「もしかして、採集ですか?」

「もしかしなくても採集だ。君たちの休暇はもう終わり。フランカさんの食材やデイリーオーダーの指定物をかき集めてもらおう。朝から晩までフル稼働で」

「おっ、鬼! 悪魔! ブラック! あんなに美味しいごはんつくってあげたのに恩知らず!」

「やれやれ、仕方ないな……いっちょやってやるか」

無言でライフルを用意するドロナ。三者三様の対応。
僕は彼女たちを総じてパートナーズと称している。
近接職のダリア、射撃職のドロナ、法撃職のマリネと一応バランスは取れている。
もっとも、採集系オーダーはソロでもクリア可能なのでパーティも組ませずに惑星に送り込むのだが。

「各員、今から送信するリストのモノを採集してきてくれ。定時になったら帰還、報告すること。以上」

「了解」「わかったよう……」「いってくる!」

コンソールを通して任務をしにいくパートナーズを見送る。

いつの間にか自分の胃に消えていた朝食を片付けた後、昨日みづきさんから預かった仕事をする。
ベレイを仕舞ったキャビネットの横にある机では普段はやらないデスクワークができる。久しぶりにその椅子に座った。

 

 

 

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