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ロビーに到着。
まずはスキルポイントを割り振らないと始まらない。
クラスカウンターに直行する。

「なにをしたいのかな?」

尋ねてきたのは係員のビア氏。中年ヒューマン男性。最近髪に白髪が混じっている気がする。
MPSE変動が起きればこのカウンターはスキルポイントの振り替えを行うアークスでごった返すのが常だ。
しかし、今は変動の直前であり、閑散としている。僕にとっては有難いが、ビア氏には寂しいものがあるのかもしれない。

「まずはこれを照合してください」

バウンサー試用被験者としてのIDをホログラム表示する。

「これは珍しい。ということはバウンサーのスキルポイント配分だね。ちょっとまってくれよ」

僕のIDを見て取るやいなやそう言い、即座にまだ試用に過ぎないバウンサーのスキルツリーが僕の網膜に表示される。

「まだスキルデータベースは出来ていないから、ぶっつけ本番になるだろうけど勘弁してくれ」

スキルデータベースというのは有志のアークスが戦闘時のデータを持ち寄って構成されるデータ群だ。
クラススキル同士の相性や細かい性能情報はそうして蓄積され、後続に伝達される。

そして、ビア氏は黙った。あとは集中しているアークスに任せる、という意思表示でもある。
彼も間違うことなきベテラン職員だ。


『どうスキルを割り振るか決まっているのかね?』

『今はじめてツリーを見たんだから、今から決めるさ』

ゼンチからの声。こいつにも網膜上のツリーが見えているんだろうか?
大体、データベースが無いから、なんとなくで決めていくしかない。
とりあえず、回避能力はどんなクラスでも重要なので4ポイント、ステップアドバンスに割り振る。
あとはジェットブーツを使うのだからジェットブーツギアを取り、スタンスをどちらか取得していけばよかろう、と当たりを付ける。

『スキルデータベースに載るような細かいデータなら僕が用意できるとも』

『本当か? 何か企んでるんじゃないだろうな?』

『君のフォトン構成から逆算すれば大体どういうことが潜在的に出来るようになっているか分かるさ。さぁ、僕にアクセスして演算を使いなよ』

『お断りだね。どうせ、より僕を理解できるようになれば自分が自由になれる、とかそういうつもりで言ってるんだろ? 生憎、敗者に憑依されたくはないな』

『フン……詰まらん奴だな君は。物事を穿って見過ぎじゃないかな?』

『ゼンチ、お前って企んでる時、すごい嫌らしい声だしてるよ』

『ぐっ……!』

黙ってくれたのでスキル振りを再開する。
正直に言えば、詳細なデータとやらは喉から手が出るほど欲しかった。有用性の分からないスキルは大量にある。
たとえば、エレメンタルバーストはレベル1で100%、レベル5で200%の威力がでるらしい。
しかし、そもそも100%でどれくらいの威力があるのか、範囲があるのかまるで分からない。
そうしたデータを提供してくれるというなら無論頼りたいのだが、先ほどのゼンチはテオドールやクラリスクレイスに声を掛ける時と同じ声だった。
どうみても悪魔の囁きなので無視するに限る。

50ポイント分のスキル振りには、10分以上費やした。
補助能力を引き上げるスキルと、エレメンタルスタンスという弱点属性を突くと火力が向上するスキルを習得。
敵によって使用テクニックを変えるというのは面白そうだ。

『君、非効率的な戦い方が好きなのかい?』

『器用な戦い方が好きっていってくれ』

器用貧乏の間違いじゃないか、というゼンチのツッコミを無視してビア氏に礼を言いカウンターから離れる。

所詮練習なので、クエストカウンターに話しかける必要はない。
そのままゲートへ。


テレポーターを通してキャンプシップに搭乗する。

この小型船の操縦は完全自動制御だ。
行きたい場所の座標を指定すると、アークスシップから発艦、船首に搭載されたテレポーター発生装置が巨大なテレポーターを形成する。

ナベリウスの位置座標は登録済みなので選択するだけで済む。
ごく軽いGがかかり、発艦シークエンスはオートで終了。
光の輪をくぐると、緑の惑星があった。

ナベリウス。

僕がアークスになって最初に降り立った惑星。
その最初は僕には二つある。つくねやいいんちょうや赤虎と降りた時と、アフィンと降りた時だ。
そのことに違和感を感じない自分を不思議に思いながら、僕はフォトンドリンクを飲んだ。

 

 

 

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