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ファイル3:変革/Trans








時計を見ると24:00を過ぎていた。

「はぁ……。何やってんだボク……集会サボっちゃったよ……」

サフランを待っていたのか、ゼンチと顔を合わせたくなかったからか、こんな自分を見られたくなかったか。
あるいはその全部だろう。エミーナはマイルームに閉じこもっていた。

『サフラン、聞こえる?』

耐えかねてWISを送る。
サフランはいつ帰ってくるだろうか?
過保護すぎるだろうと思い、ミッション中の妹にWISを送ることは極力しないつもりだった。

しかし、流石に遅すぎる気がする。
確か妹は惑星アムドゥスキアにいったはずだ。

アムドゥスキアの原住知的生物は龍族である。
直立したトカゲのような出で立ちの彼らは、デューマンの遠い祖先といってもいいかもしれない。

そこまで考えて、妹が消え入りそうに思えていた理由が、別の推測に取って代わる。

(まさか、龍族とデキた……? いやいや、ないない! あれ、でもクーナもハドレッドとそういう関係? いやあっちは姉弟か……)

自分の妹はお世辞を抜きにしても可愛い。しかし男っ気はまるでないのだ。だが、龍族なら? などと妙な妄想が混じる。
慌ててWISを連呼する。

『さふらーん? サフランー?』

応答なし。WISは恒星間通信をラグなしでやってのける。
応答がないということはサフランが気づいていないか、応答を拒否しているかのどちらかだろう。
いや、もう一つ可能性がある。

『……ザザ……おね……ザ……キャ…シップが…ょ…て……墜落し……』

ノイズ。何故ノイズになるのか。
いや、それよりも内容が問題だ。確かにシップが墜落と聞こえた。
エミーナの顔から血の気が引く。いまや龍族との恋愛だなんて妄想はどこかに飛んでいった。

『ちょっ……!? 嘘でしょ!? まってて! すぐ助けに行くから!』

跳ね起きた。座っていた筐体の椅子が反動で倒れる。エミーナはそれを直すこともせず、一目散にマイルから飛び出した。


テレポート


ゲートエリア。
一昔前ならこの時間でも溢れかえるアークスで盛況だったろう。
しかし、今は数人のアークスが暇そうにうろついているだけだ。

いや、エミーナがただ一人走っている。真っ直ぐにゲートへ向かう。
キャンプシップの故障なんて冗談ではない。戦闘機こそよく故障するが、キャンプシップの故障なんて起きる確率は万分の一にも満たないのだ。

(何でそんなことが起きたの!?)


その理由をすぐにエミーナは察することになる。
ゲートに入ってもキャンプシップへのテレポートが出来ないのだ。

『すまない。今ゲートは使用できない』

WISではない。オペレーター:ヒルダからの通信。

「どっ……どうして!?」

『……申し訳ないが、その理由は開示できない』

心の底から申し訳なさそうなヒルダの声。
エミーナはA.P.238/7/7……あの絶対令の日を思い出した。あの日も、ヒルダはこんな顔をしていた。
だが、あの時は諦観に満ちていたが、今のヒルダは焦燥しているようにも見える。
何故? 上層部はクリーンになろうとしている。なら、これは陰謀ではない。
突如、脳裏に友人から伝え聞いた情報が蘇った。

"アークスと市民の間で不和が広がっている"

ストライキ? 整備員が不足した? それとも巧妙なテロだろうか。
いや、今考えるべきはそれではない。
いずれにしろゲートは今使用できないのだ。
エミーナは踵を返し走り出す。

(考えろ! どうすればサフランを救える!?)


 

 

 

 

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